ヤス@BUNKAIWA

2019年5月16日4 分

今まで自分が信じてきた自分像が崩れていく感覚:『恥』の心理【異文化変容ストレス】

最終更新: 2020年2月13日

みなさんは今までの人生を振り返ってみて、自分の中に構築した自分像というものを持っていますか?

社会的にも、人間関係的にも、「自分はこういう人!」と言い切れる自分のイメージ像を持つ人、とても多いのではないでしょうか。

では、もしその今まで信じてきた自分像とは違う自分が出現したとしたら?あなたは受け入れられますか?

今回は異文化に入った人が経験する「自分が自分で無くなる感覚について」をお話ししたいと思います。

過去の功績や努力がすべてリセットされたとしたら?

突然ですが質問です。

  1. あなたは自分のことを初対面の人(同じ文化出身者)にどのように紹介しますか?紹介する項目を出来るだけたくさん思い浮かべてください。

  2. 思い浮かんだことの中で、社会的地位が関わっているものはどれくらいありますか?(職業、肩書き、スキル、出身校、会社名、取得検定、などなど)

  3. もしこの社会的地位が無いとしたら、あなたは何者ですか?

1. と3. の答え、

…どれだけ違ったでしょうか。

異文化・異国に飛び込む人がまず経験すること。

それは、自分の今までの常識が相手には理解されないこと。

いくら自分の功績を話しても、有名大学を出ていても、エリート社員だったとしても、同じ文化を共有した者でなければ知り得ないことが、たくさんあるのです。

そしてそれを無しにした状態というのは、自分の過去の努力や経験が消える感覚。つまり、自身のアイデンティティの喪失感へと繋がります。

自分の功績や過去の経験が無視された状態の自分が目の当たりにするのは、

「現地に不慣れな人」

「現地の言葉がカタコトの人」

という肩書き。

『異文化で生活を始める』ということは、ここからのスタートになるのです。

最も大きな負の感情のひとつ『恥』がもたらす衝撃

現地に不慣れで肩書きも何も経歴も無い、そして話している言葉が拙い(ように見える)。

日本で培った社会的功績や地位を抜きに、そんな状態の自分を判断された…そう思ったら自分のプライドがズタズタになりますよね。

これは、恥の感情。

心理学者のジョセフ・バーゴ博士によると、『恥』とは、人間が感じる感情、しかもネガティブな感情の中で最も大きな感情の一つと語っています。

ちなみに恥 (shame)は、「恥ずかしい (embarrassing)」を指すのではなく、「面目を潰される」といった意味合いが強い言葉です。

人間の感情の中で大きなものの一つという理由は、生まれたばかりの赤ん坊でも恥を感じとることが判っているからだそうです。

小さな赤ん坊にとって保護者が自分を守ってくれなかったと感じる時に経験するのは、自分の存在意義を脅かされたり、自身が痛めつけられたりするようなとても辛い感情だそうです。その強烈な負の感情が『恥』であると博士は説明しています。

つまり恥とは、自身の存在意義の評価や生存出来るか出来ないかに直結する感情であり、そのため、恥を感じる時というのは、生死を分けるぐらい切実で辛い衝撃を人に与えるのです。

また、「恥」の研究で有名なブレネー・ブラウン博士の本によると、

人間は自分の求めてる自分像に劣る違う姿で評価をされた時にとてつもない恥を経験すると説明しています。

まさに異文化で生活を始めた人が経験する「本当の自分より劣った自分を評価されているような気分」は、恥の感情を生みやすくさせる原因になります。

それはとてもインパクトが大きく、恥を経験することから派生する、さらなるネガティブな感情:例えばショックを受けたり、自分がダメ人間に思えたり、悲しくなったり、怒りが湧いたりすることは全く不思議ではないのです。

0からのスタート

自分の姿が周囲の人々の主観によって変化してしまう様。まさに、今まで自分が信じてきた自分像が崩れる、というこの感覚。

異文化という環境に入らなければ経験することはほとんどないでしょう。

そのため、現地の人たち、または母国に住む友人や家族には、この感情はなかなか分かってもらえません。これは本当に辛いことです。

しかし裏を返せば何も失うものは無いということ。

これから経験するすべてのこと、努力したことは、全て現地の人たちの目に入ることになります。何よりも、アイデンティティの喪失感を感じたとしても、アイデンティティ自体(例えば質問3で答えた内容、または自身の本当の性格や強みのようなもの)が自身から消えることは一切ありません。

それをどう調理するかは自分次第。自分の求める自分像を新しい環境のもと自身で切り開いていく!この状況を丸ごと受け入れ、一歩踏み出すこと。

それが恥に打ち勝ち自分像を取り返す唯一の秘訣です。

クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。


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参照文献:

Brene Brown (2018).Dare to lead: Brave work.Tough conversations. Whole hearts. Audible. Audiobook.

Joseph Burgo (2018). Shame: free yourself, find joy, and build true self-esteem. Audible. Audiobook.

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