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  • 執筆者の写真ヤス@BUNKAIWA

カサンドラ症候群:この言葉の流行りに思う日本社会のメンタルヘルスケアに欠けていること



(12/06/2023に記事を一部改変しています。改変部分は紫色の字で記しています。)


カサンドラ症候群という言葉を知っていますか?


カサンドラとは、真実を知る能力を持つ一方で、自分の話すことを周囲に理解してもらえず苦しむ境遇を持った、ギリシャ神話に登場する王女の名前だそう。


彼女のように自分の境遇を周囲に理解してもらえない苦しさを持つ、という意味を込めて、ASD(自閉症スペクトラム障害)特にアスペルガーといった高機能自閉症の配偶者を持つ方の葛藤を指した言葉がカサンドラ症候群と呼ばれているそうです。


わたしはこの、『カサンドラ症候群』という言葉が、日本では結構浸透している言葉と知りびっくりしました。それは、HSPの流行り方に通じるように、日本のメンタルヘルスへの理解が乏しい社会性が浮き出ている象徴に感じたのでした。


そこでこの記事では、カサンドラ症候群に当たる方達の葛藤やケアの方法と併せて、この言葉の流行りに思う日本社会のメンタルヘルスが変えていく必要のあるポイントを指摘したいと思います。



カサンドラ症候群って何?

カサンドラ症候群とは、ASD(自閉症スペクトラム障害)や高機能自閉症(旧:アスペルガー)の配偶者を持つ方の精神的葛藤や苦痛の症状を表した言葉として誕生しました。


カサンドラ症候群に当たる方は、パートナーの感情表現や傾向が予期するものと違うことに戸惑い、大きな拒絶感、怒りや悲しみなど様々な感情を抱えてしまうことが指摘されています。また、それが表面的には周囲にあまり理解されにくいことも、カサンドラ王女と重ね合わせられた背景にあるようです。


実はこの言葉は、アメリカの心理関係者の間では、あまり知られている言葉ではありません。わたしも日本のウェブサイトで『カサンドラ症候群』を知りました。


なぜなのか調べてみると、それには理由がありました。


カサンドラ王女の悲痛な境遇になぞらえて「ASDなど非典型的な配偶者を持つ典型的な人が経験する苦痛」という症状の説明の仕方。それはまるで、カップル関係においてASDなど特定の診断を持つ側に一方的に非があり、もう一方が被害者的に受け取れるニュアンスが付随しているように感じませんか?やはり、この言葉の名付けられ方に対して、適切な表現ではないのではないかと異議を唱える専門家たちの意見があったそうです。


また、ASDに限らず、感情表現に乏しい低い感情知能(Emotional Intelligence)を持つパートナーとの間にも同じように見受けられる精神的葛藤であることなどから、あくまでもカップル間の双方の感情知能度合いが大幅に異なることからくる精神的葛藤を指した症状として、現在では、Affective Deprivation Disorder (AfDD)(情動喪失障害)と呼ばれているそうです。


しかしながら、このAffective Deprivation Disorder (AfDD)(情動喪失障害)も、状況をラベリング化するには役立つものの、カッサンドラ症候群と同様に、典型的ではない特性を持つパートナーに向けてネガティブな解釈がどうしても出てきてしまうこともあり適切な表現ではないのではないかという批判も受けています。


アメリカの心理カウンセラーや精神科医が診断の際に参考にするDSM(精神障害や症状をまとめた精神医学書物)では、関係性の障害(パートナーとの関係から起こる精神的症状、もしくは、環境や状況によるストレスや不調を説明するZコードが妥当)として扱われており、カサンドラ症候群もAffective Deprivation Disorder (AfDD)(情動喪失障害)も、正式な診断名として利用されることはありません。



Affective Deprivation Disorder (AfDD)(情動喪失障害)の特徴とは?

この記事では、カップル間の葛藤に関してを具体的に説明するために、情動喪失障害(AfDD)を例に取りながら、説明を進めていきます。


情動喪失障害(AfDD)に当てはまるには、以下の1から3の項目が当てはまる場合だそうです:


1)一方のパートナーに、低い感情知能(EI)や低共感力、もしくはalexithymia(失感情症)があること。


2)お互いの関係的なやりとりがうまくいっていない状態があること。


3)ネガティブな身体的、または精神的症状が発生している状態であること。

それらの症状とは例えば:

  • 低い自己尊重感

  • 混乱や圧倒される気持ちを経験している

  • 怒り、不安や鬱を経験している

  • 罪悪感を感じている

  • 自分を見失う、個人喪失

  • フォビア(社交や人に対しての強い嫌悪感情)

  • PTSD的反応

  • 疲労

  • 睡眠不足

  • 体重減少、体重増

  • 月経前緊張症(PMT)やその他女性特有の問題


AfDDの指す『情動喪失』とは、双方間の感情コミュニケーションのやりとりが同調していなかったり、相手に求める感情の承認や反応が上手く行われていなかったりすることを表しており、そこに原因があるカップル関係のストレスに苦しむ者が情動喪失障害に当たります。


AfDDがカップルの両者に同じ程度のインパクトを与えているのかどうかははっきりとは解明されていないそうです。そして、低感情知能傾向のパートナーに対してもう一方がAfDDを発症する、いわゆるカサンドラ症候群に当たる場合もあれば、低感情知能傾向者側が、高感情知能傾向のパートナーの感情表現に困惑してしまうという場合もあるそうです。


感情のやり取りを両者の間で上手く調節しコミュニケーションをとっていくことが難しく、大きな感情が起きた時の感情・行動抑制に対処が出来ず暴力や問題行動に発展してしまうケースも指摘されています。



情動喪失障害(AfDD)への対処法とは?

カサンドラ症候群に当たる側、情動喪失障害(AfDD)に苦しむ高感情知能傾向者へのサポートには、感情授受のやり取りが上手く行かないうちに傷ついてしまった自己尊重や自分の存在感覚を再確立することを行なっていきます。また、パートナーの障害への理解度を上げ、感情知能能力を高めながら、コミュニケーションスキルを改良していくことで、カップル関係を痛みを伴うものから良好なものに変えていくことを目指します。



1)心理教育


まずは、なぜ相互の感情のすれ違いやストレスが起きるのか、感情授受に関するハードルをカップルの間で共通の理解にしておくこと。そこには、失感情症や低感情知能者、アスペルガー傾向のある者の脳の仕組みの違いや、感情の受け取り方の違いや効果的なコミュニケーションの取り方を双方が理解しておくことが求められます。そして、それを元に、今までの二人のやり取りを振り返り、なぜ問題が起きていたのかを理解するようにしていきます。


2)コミュニケーション方法を変えていく


空気を読んだ、阿吽の呼吸をこの関係において求めることはとても困難です(そもそも、どのカップルにおいてもこれは言えることだと思いますが、この場合は特に。)はっきりと分かりやすい、コミュニケーションを二人の間で築いていくこと。例えば、どのような説明の仕方が双方にとって一番分かりやすいのか、言ってはいけないこと、もしくは伝える必要のあることなどを整理していくようにします。


3)関係に求める期待値を変えていく


双方が出来る範囲内のこと、パートナーに求めることのできる期待値を再設定することが必要になってきます。「本当はカップルで一緒にこういうことをしたいのに‥」「パートナーにこういうことをして欲しいのに‥」、と感じる淡い期待は残念ながら難しいかもしれません。世間一般のパートナー像やカップル像とは異なり、現実的に自分の関係を見てみたときに、自分と相手の間では何が可能で何が難しいのか理解していくことで、相手の予想外の反応に必要以上に傷つくことは減っていきます。



上記はカサンドラ症候群に当たる方の気持ちのケアへのアプローチを説明したものです。しかし、あくまでも、情動喪失障害(AfDD)は2者の関係性が相互に関わり合って起きている障害です。そのため、カップルを一つの単位としてサポートを行なっていくことも望まれていますし、それを可能にするには、どちらか一方に非があるといったニュアンスを出来るだけ排除していく必要があります。


しかしカップルでこれらの内容を話し合っていくうちに、個人的な葛藤や消化しにくい気持ちもたくさん生まれてくるでしょう。そのため、カップルカウンセリングと双方個人のカウンセリングを並行して行えると理想的かもしれません。


カサンドラ症候群の流行り方に思うこと

情動喪失障害(AfDD)は、一方のパートナーの感情知能がもう一方とは大きく異なることで起きている感情授受のすれ違いから起きる症状です。高感情知能者にとって、相手からの思いがけない感情授受の反応に、極度の拒絶感や悲しみ、戸惑いや強い怒りを感じることは当前であり、この境遇に置かれた方への理解が話されることはとても良いことだと思います。


しかし、HSP(ハイリーセンシティブパーソン)の日本での流行にも共通していますが、自分の置かれた境遇や症状に名前がついて終わりではないのです。カサンドラ症候群についてを調べていて思ったのが、「自分がこの症状に当てはまるかどうか」といった自己診断ができるようなチェックリスト的なものや、カサンドラ症候群を経験している人に寄り添い過ぎてかASDなどのパートナーを批判的に説明する内容や病状についてを事細かに説明した情報に溢れていて、具体的な対処法について説明するものはあまり存在していないのが印象的でした。


この障害は、カップルの双方の感情授受の度合いやコミュニケーションの仕方の差異に原因があるため、なぜこのようなことが起きるのかを理解し、その上でカップルのコミュニケーション方法を変えていく対策が、ASDやその他のコミュニケーションや感情表現に葛藤を抱える方の障害や傾向への理解と同時に話されていく必要があるのです。そして、そこに被害者、加害者的視点からアプローチすることは決してあってはならないのです。


そもそも、発達障害、ASDと一口に言っても、各個人様々な傾向や状況、カップル・家庭環境が存在しており、一括りでまとめられるようなものではありません。


それぞれの個人が経験している葛藤を個人単位で理解しサポートし合える環境が無いこと、そして、コミュニケーションに難しさを感じるASDなどの障害の特徴や傾向、効果的なコミュニケーション方法などをオープンに話しにくいことなど‥、典型的でないことをラベリング化して排除するような社会性が日本のメンタルヘルス分野にはまだまだ根強いのかな‥といったことを感じました。


おわりに

わたしは日本は特に感情抑制や感情表現を学ばないまま大人になった人が多い社会性を持つように感じています。そして、発達障害に至っては、その傾向を持つ個人が適切な介入を受けられないまま成人されたケースも多いだろうと予想します。そのため尚更、失感情症や低感情知能傾向のパートナーがいるカップル間で情動喪失障害(AfDD)が生まれているケースでは、精神的な戸惑いはとても大きなものとなりますし、そもそものストレスの原因がどこにあるのかが分からずに悩んでいる方もいると思います。


特に、発達障害などを自分たちとは違う別のカテゴリ的に扱うような風潮を持つ社会性の中では、ASDの特徴や傾向が偏見なくニュートラルに話されることが少なくなるため、スティグマや偏見的な偏った見方の影響で、適切なサポートを求められないまま苦労している方やその家族は多いでしょう。


わたしは、日本のメンタルヘルスの分野を変えていくには、第一に、ASDなどをはじめコミュニケーション障害や精神的な葛藤を抱える人たちへのスティグマを無くしていくことがとにかく大切だと思います。そして、もっと普通に個人の違いを知り合い、受け入れ、問題が起きたらそれをどう対処していけば良いのか、そこを重点に話し合っていける環境作りをしていく必要があるように感じます。


惜しくも、カサンドラ症候群は、辛い症状を抱える方への寄り添いには成功しているように感じますが、一方で、ASDの配偶者に原因を求める意味合いを付随しています。そのネーミングに疑問を持つところから、本質的なメンタルヘルスへの偏見を変えていきませんか?



BUNKAIWA・吉澤やすの

 

参照:

Simons, H., Thompson, J. Affective Deprivation Disorder: Does it Constitute a Relational Disorder?. Weblink


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