ヤス@BUNKAIWA

2021年8月4日9 分

異文化適応に欠かせないセルフ・リフレクション。自分と向き合うことから始める海外サバイバル【異文化変容ストレス】

最終更新: 2022年4月28日

言葉も文化も違う見ず知らずの環境で、一から自分の居場所を築いていく。


 
その過程は、とてつもない孤独と不安との戦いの連続です。


 
そんな中で、上手くいかないことがあったり、思うように事が運ばない時があったりすると、どうしても自分を責めてしまうこともあるでしょう。


 
わたしもアメリカに来たばかりの頃、本当に現地の様子に馴染めず、


 
「なんでもっと器用に愛想を振りまけないんだろう…」


 
「なんでオープンになれないんだろう…」


 
こんなことを思うのは日常で、陽気でフレンドリーなアメリカ人になかなか馴染めていない気がして落ち込んでしまうことも多々ありました。いつも周囲、他人の良いところを見ては、自分のダメさ加減を感じて落ち込んでいたのですよね。


 
しかし、そんなわたしが紆余曲折を経て気づいた異文化適応を実現するための一番の近道とは…、意外にも、自分自身と向き合い自分を深く理解するセルフリフレクションを繰り返すことでした。


 
でも、なぜ自分に向き合うことが役に立つのか?この記事では、異文化適応の成功と自己理解の関係について、わたし自身の経験した文化変容の例と共に紹介したいと思います。


 

何が起きているのか理解できないと人は不安になる


 
そもそも、我々人間は、自分の身にどのようなことが起きて、どんな気持ちを抱え、それがどのような考えや行動に繋がっていくのか。この一連の流れを無意識のうちに行いながら日常を過ごしている場合がとても多いのです。


 
それはまるで、自動操縦の飛行機が気がついたらあっという間にどこかに到着している感覚に近いかもしれません。しかし、もしその飛行機が、予定していた終着点じゃない場所に到着した場合、乗客が不安になったりパニックになったりすることは当然でしょう。


 
このパニックを避けるためには、なぜその飛行機が新たな到着場所に辿り着いたのか、そこにたどり着くに至るまでの過程を知ることが大切になってきます。


 
『これこれこういう理由で飛行機は方向転換して、こうしてこの場所に辿り着いた。』


 
飛行機の辿った道筋やそこに至るまでの決断のプロセスが理解できるだけで安心度は大分変わってきます。このような現象が、人の心にも同じように当てはまるのです。


 

異文化適応のプロセスには大きな個人差がある…だからこそ、自身の状況を理解することが圧倒的に難しい


 
異文化環境で生活することになる移民(移住者)は、それぞれが一人一人、異なる異文化変容経験を経て現地への適応を迎えていきます。それはつまり、異文化変容はとても個人的なプロセスであるということ。たとえ同国出身者、もしくは同じビザや境遇での移住、同じ家族内であったとしても、個人の経験する体験を誰一人として同じように再現することは出来ません。


 
移住先の言葉や文化慣習が出身先とは異なる地域であれば、尚更、困惑や混乱が起きることもあるでしょう。


 
「なんで自分は今、こんなことを感じているんだろう…。」


 
「何がストレスになっているのか…。」


 
「なんでこのような行動をとってしまうのだろうか…。」


 
漠然とした不安や疑問が散りばめられている状態では、どんどん気持ちが圧倒されて参ってしまいます。そうならないために大切なのは、自分の抱えている葛藤が起きた背景や過程(プロセス)を一つ一つ把握し理解していくこと。つまり、セルフリフレクションが必要なのです。

異文化変容プロセスを説明した心理理論を枠組みに


 
移民心理の研究には、移民がどのような異文化変容の心の過程を辿っているのかを一般論として説明しているものが存在します。詳しくは別記事→異文化変容のプロセスをお読みください。


 
それらの理論は、膨大な移民のデータを元に構築されており、多くの移民に普遍的に当てはまる現象をまとめたものです。異文化変容を経験する上で、どのようなことが起こりうるのか。大まかなフレームを作ってくれる役割として、異文化変容プロセスの理論を知っておくと、自分の経験していることがどのような過程を経て起きている可能性が高いのかを整理するために役に立つでしょう。


 
しかし、理論はあくまでも普遍的な現象を辿った先にあるもの。細かな個人的な経験を説明するとなるとやはり「なぜ自分は〇〇を経験しているのか?」という、自分に回帰した問いを行わなければなりません。そのために大切なのが、自分と向き合う過程なのです。


 

わたしの経験談・その1:吃り(どもり)と英語力の因果関係


 
わたしがアメリカ生活を始めた時、とても辛かったことの一つに吃りがあります。


 
何かを質問されると咄嗟に出てくる言葉が、とにかくぎこちなくてカッコ悪い。ぶつ切り単語でしどろもどろ英語が全く話せないみたいで情けない。こんなことが日常茶飯事で、人と話すのがとっても嫌で仕方がありませんでした。


 
話したくないから話さない。話さないと余計に話した時の吃りがカッコ悪く際立って、余計に恥ずかしくなる。もっと話すのが嫌いになる。


 
このネガティブなサイクルを永遠と繰り返している時期も。そこには、恥の感覚・そこからくる恐怖もとても強くありました。


 
でも、ある時、気が付いたのです。自分が全く吃らないで話せている時があることを!!


 
そこからわたしの怒涛の自己分析が始まりました。どういう時は平気で、どんな場面で吃るのか、自分の吃りを振り返っていくと、そこには緊張度が関係していることがはっきり理解できたのです。それは、自分自身が緊張している時に起こることもあれば、話す相手側が何かしらの緊張状態を抱えた中でわたしに話している場合にも当てはまりました。


 
これを理解してからは、もうまるで最強の武器を手に入れたような気分。吃りが起きた瞬間に、自分の感覚に意識を集中して何が自分に緊張状態を与えているのか、どうしたら緊張を解せるか、現象を理解し意識的に緊張を解くための方法を取ることで吃りを抑えることが出来るようになったのです。面白いことにこれは、相手の緊張が伝達した場合にも同じことが言えて、自分は緊張していないけどな…という時には意識的に相手が何に緊張しているのだろうか考えたり、緊張をしないで済むような話題を振ったりしてコミュニケーションを取ることで対処ができるようになりました。


 

わたしの経験談・その2:内向的・外向的?自分の性質を理解すること


 
人と話す仕事をしているものの、わたしは大がつくぐらいの内向性格。昔から一人で山籠りしてても全く飽きないくらいの、一人の時間が超大好きなタイプなのですが…。


 
この自分の傾向をはっきり理解していなかった移住初期の自分は、早く現地に馴染まねば!と、知り合った人やクラスメートの誘いに無理に付き合うことが多かったのです。

ただでさえ、慣れない環境での刺激の多い日常に、その情報量の多さに頭がパンクしてしまう。そんな状況になると、もう周りをシャットダウンして静かな穴蔵に引き篭もらなければならないくらい疲れ切ってしまう。外に出ては疲れ切って帰ってくる…、旅行やパーティに行こうものなら途中で投げ出して帰ってきてしまう暴挙に出ることもあれば後日寝込んでしまうことも…。いつもそんなことを繰り返していました。

無理しては失敗して…その後に襲ってくるのは、馴染めてない感満載の自分の姿と、それに対する嫌悪感。なんでもっと器用に振る舞えないのか。なぜオープンになれないのか…。

なぜ自分がシャットダウン(強制終了)を起こすのか、その背景が理解出来ないうちは、周囲の社交的で楽しそうにしている人たちと自分を比較しては、自分で自分を責めてしまうことも多かったのです。


 
そんなわたしが何度も同じことを繰り返したどり着いたのは、自身が自分のこの傾向を理解すること、それしかありませんでした。もう、どう頑張っても羨望を感じる〇〇さんのような性格にはなれない、自分のこの性質を変えることは出来ない、と悟る時があったのですね。そして自分にとって許容範囲の刺激とはどの程度のことなのか。また、疲れたら充電をするには何が必要なのか。と自分自身に徹底的に向き合い理解し、説明を加え、それを受容していくプロセスが必要でした。そこには、自分の過去を丸ごと振り返ることもしていきました。

自分自身の傾向や出来る範囲のこと、また疲れたら何をすればシャットダウンを起こさずに済むのか…。これが理解出来てきた今では、無理のない範囲で人に会うことが出来、楽しい思い出も増えていきました。そして、いつの間にか、自分に合った居場所が、アメリカ生活の中に出来ていったのです。


 

おわりに

上記に紹介した経験談は数多くある自分の失敗談の内の一つの例に過ぎず、異文化変容を経験されている方なら誰しも何かしらの葛藤を抱え、今を生きているでしょう。

今、アメリカ生活が自然になってきた自分を迎え、改めて気づいたことは、自分を理解するためのプロセスは、どこの場所にいても自分を守るためのとても大切な能力だということ。

実は、わたしにとって、吃りも、内向的で人付き合いが苦手な特徴も、移住する前の日本に住んでいる時から経験していたことだったんですよね。笑!!

『異文化環境』という自分一人しか支えてくれる存在が居ない状況になってはじめて、誤魔化しが効かない、本当に自分の性質や改善点と徹底的に向き合う機会が与えられたのだと思いました。

しかし、自分の性質や改善点が直視出来ると、その先にあるのは自分への労りの気持ちと、もうちょっと頑張ってみようかなと思える希望。なんとなく、これが自分の異文化適応を強く優しく後押ししてくれたように感じます。

まとまりのない文章になりましたが、この記事にどこか共感してくださる方がいれば嬉しいなと思いながら書いてみました。異文化変容に苦しむ方の励ましの声の一つになれたら幸いです。


 

クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWA


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参照文献:

Berry, J. W., Kim, U., Minde, T.,& Mok, D.(1987). Comparative Studies of Acculturative Stress. International Migration Review. Vol. 21, N

Kim, B.K.,& Omizo, M.M. (2006). Behavioral acculturation and enculturation and psychological functioning among Asian American college students. Cultural Diversity and Ethnic Minority Psychology, 12(2), 245-258.doi:10.1037/1099-9809.12.2.245

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