「海外生活のストレス」をインターネットで検索すると、出てくる出てくるたくさんの体験談。どれもこれも「超気持ちわかる~」と思うものばかり。アメリカ生活に馴染めなかった苦い留学生活では、毎日のようにこの言葉を検索しては、他の人の体験談を読んで自分を慰めていました。
しかしある時、気づいたのです。これって「個人的な葛藤」で済む話…ではないハズ。こんなに多くの人が経験しているのだから、海外生活のストレスに関する研究は絶対ある。そして見つけたのが「異文化変容ストレス」という言葉でした。
そこからわたしの「異文化変容ストレス」探求の旅がはじまりました。
この記事では、移民が辿る「異文化変容」という精神的変化と、そこから派生するストレス「異文化変容ストレス」について、心理学的な見解とその対処法をご紹介したいと思います。
*この記事では、自文化を離れ海外生活をしている、または異文化環境に適応せざる得ない状況にある人をまとめて「移民」と表現しています。
異文化変容とは新しい環境に馴染むための精神的変化
異文化変容(acculturation)は、”移民集団が新しい文化環境に接触すると、彼らは自分たちの元来持っていた文化パターンを変化させ新しい文化環境に適応しようとする傾向があった“という発見がはじまり(1936年のこと)。もともとは集団現象を表現した言葉でしたが、現在では、異文化で生活することになった誰もが経験する、文化適応をするための精神的変化の過程を説明する言葉として使われています。
異文化変容ストレスは異文化に適応しようとするだれもが通る道
異文化変容ストレス(acculturative stress)とは、文字通り、異文化変容の中で発生するストレスのこと。注目すべき点は、移民ならば誰もが経験するものでありながら、たとえ同じ国や文化出身者であっても、個人の育った環境や性格、受け入れ先の新文化の特徴によって、ストレスの度合いにかなりの個人差が出るということです。
それではまず、どんなことがストレスの引き金になるのでしょうか:
言葉の違い
慣習の違い
サポートシステム(生活を助けてくれる知人や情報量)の少なさ
生活力の脆弱性
個人主義、集団主義からくる移住先の人と自分の考え方の違い
自分の文化が生活から消える(自文化ロス)
自分がマイノリティ(文化・人種少数派)になること
ここに挙げたことは多くの移民が避けて通れない試練。新しい場所・何もない状態から生活を立ち上げようと頑張っている個人に常にこのような試練がのしかかっているとしたら、相当な負担です。そして、このハンデをとにかく必死にカバーしながら生活するのだから、毎日サバイバルモードになるのは当然です。
サバイバルな状態だと、現地の人との間に起きるすべての小さな衝突が、毎度毎度、生死に関わるような一大事のような衝撃に感じてしまっても不思議ではないのです。
そして沸き起こるのがこれら負の感情:
恐怖
怒り
悲しみ
恥
被害者感情
自身のアイデンティティや生活の喪失感
孤独感
絶望感などなど
これが異文化変容ストレスの正体です。
そして、この負の感情が厄介なのは、自身の試練に対する抵抗力を弱くさせストレスを受けやすい体質にしてしまうということ。対策を取らずに放っておくと、鬱や不安障害などもっと深刻な精神状態へと発展していくこともあるのです。
異文化ストレスの対応策とは
では、どうしたら異文化変容ストレスを軽減できるのか?
まずはこれから始めてみてください。
⒈ 「異文化変容ストレス」の存在を知り、自分を責めないこと。
個人差はあれど異文化変容ストレスは、異なる文化に一人放り込まれたら誰もが経験することです。自分の性格や語学能力が全ての原因ではありません。「異文化変容ストレス」の特徴を知り「異文化への適応をせざるを得ない」という状況が、個人にとってどれだけストレスフルなことなのか把握すること。何よりも自分を責めてはいけません。
⒉ 自分を周りと比較しないこと。
異文化変容ストレスは、自分一人にしかわからない個人的葛藤の連続。なんと言っても、このストレスの特徴は個人差が激しいということ。うまく環境に溶け込めてる移住者や留学成功者がいても、彼らは彼ら。自分にプレッシャーを掛けることは禁物。もともとシャイだった人に、イケイケになれと言っても無理な話です。他の人の成功例をなぞるよりも、自分に合った適応方法を見つけるのが早道です。
⒊ 自分を褒めることを日課にする。
新しい文化に合わせて自分の価値観を変え適応するということは、とてつもなく大変なこと。新しい環境で、必死に頑張っている自分を褒めてください。移住してから今まで自分が達成したことを些細なこと(例えばスタバで注文が出来るようになった等)から大きなことまでなんでも紙に書いてリストアップしてみるのも効果的。意外に長い達成リストに自分自身が一番びっくりするかもしれません。自分のことを好きになること、それが異文化ストレスを乗り切る何よりの特効薬になります。
⒋ 状況を客観的に見る訓練をする。
今、自分の置かれている状況にじっくり向き合い、自分は何に悩んでいるのか冷静に客観的に分析してみましょう。紙に書き出してみるのも良い方法です。また、ネガティブな体験をした時は、状況を時系列に書き出してみて。冷静に振り返ってみたら、大したことじゃなかったという場合もあります。
⒌ 自分の限界を知る。
自分のことを一番解っているのは自分自身です。他の同国・文化出身者には大丈夫でも、自分にはどうしてもダメなこともあります。異文化変容ストレスの特徴は、なんと言っても個人差があるということ。誰とも比較出来るものでは無いのです。自分のペースで自分に合うものから新しい文化を自分の生活に取り込んでいけば良いのです。また、今の自分に出来ないことや足りないことを把握しておくこともとても大事です。言葉が問題であれば通訳を頼んだり、相談者が必要であればカウンセリングに通ったり、外部のサービスを一時的に使うことで解決するものに関しては、使ってみるのも手です。
さいごに
もちろん、この5つの対処法すべてで異文化変容ストレスが解決するわけではありません。ここには挙げていませんが、金銭面の問題やビザ、移住に至るまでの経緯、家族のこと等、本人の心持ちだけではどうにも対処出来ない試練やハンデも多く存在します。
だからこそ、何よりも、自分に出来ることを知り、自身を労わることの大切さを理解することがとても大事です。これだけは、周囲に振り回されやすい海外生活の中で、唯一自分が全責任を持って管理できることだからです。
わたし自身、環境になかなか馴染めなくて思い悩むときもたくさんありました。しかし、周りの人に支えられ、励まされ、自分に徹底的に向き合うことで、徐々に自分の居場所を見つけることができました。人の優しさを心底学んだのも、この経験があったから。
新しい環境で生活するということは、人生においてインパクトのデカい大イベントのひとつです。しかし、ゆっくりとでも、これを乗り越えることが出来る日は誰にでも必ずきます。自分を信じて、少しずつ前に進んで行きましょう。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
参照文献:
Berry, J. W., Kim, U., Minde, T.,& Mok, D.(1987). Comparative Studies of Acculturative Stress. International Migration Review. Vol. 21, N
Kim, B.K.,& Omizo, M.M. (2006). Behavioral acculturation and enculturation and psychological functioning among Asian American college students. Cultural Diversity and Ethnic Minority Psychology, 12(2), 245-258.doi:10.1037/1099-9809.12.2.245
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