• ヤス@BUNKAIWA

海外生活で誰もが遭遇する『恥』体験。恥の苦痛を乗り越えるために知っておきたい『セルフ・コンパッション』という考え方【異文化変容ストレス】



“ If you want to improve, be content to be foolish and stupid.”

(改善したいなら(前に進みたいなら)、バカで愚かになることを許容出来るようになることだ。)


これは、Gary John Bishop 氏が “Unfu*k Yourself: Get out of your head and into your life” という本の中で語っている言葉です。みなさんはこの言葉をどのように受け止めますか?


恥ずかしさが怖くて仕方が無かった留学初期

わたしはアメリカ生活を始めたばかりの時、言語の未熟さと現地への不慣れさから『恥ずかしい』経験をし、一時期英語話者やアメリカ人に関わるのが怖くて対人恐怖になりました。現地の人との接触を避けて生活しようにも、わたし一人、家族も誰もいない留学生活でそんなことが可能なわけはなく。。人と話す=恐怖を体験する環境から逃げられないことに絶望感を覚えながら毎日をビクビク過ごしながら必死にやりくりしていた時があります。


このブログを読んでくださっている読者の方の中には、慣れない環境でやってしまった恥ずかしい体験からしばらく立ち直れない思いをしてしまったことがある方も多いと思います。みなさんは、それらの体験にどうやって向き合っていますか?


この記事では、恥を掻いてしまった時の苦痛とその解消法を恥のメカニズム&移民の立場の視点を交えてご紹介したいと思います。


恥ずかしさがもたらす精神的苦痛の正体

以前こちらの記事今まで自分が信じてきた自分像が崩れる感覚:『恥』の心理【異文化変容ストレス】でも紹介しましたが、『恥ずかしい』思いとは、まだ言葉のわからない赤ちゃんですら経験する、とても衝撃的でショックの強い、心に痛みを与える感情の一つとされています。


心理学者のジョゼフ・バーゴ博士によると、『恥』は、自意識や罪悪感といった感覚を含む人間にとってとても大きな感情の一つであり、「どんな自分になりたいか」または「社会の中で自分がどういう存在でありたいか」といった他人から見た自身の評価や価値観に強く影響を与える側面を持つと説明しています。


人類学的に、人間にこの『恥』の感情が生まれたのは、大きく遡って、人間が単独ではなく共同体として社会を形成し共生し始めた時だと言われています。


共同体の一員として生活する上で、その共同体の規範から外れる者がいるとその共同体自体の死活問題に関わってくる。そのような環境から、共同体のルールを守れない者を減らすために、進化の過程で『恥』という感情が人間には備わっていったとされています。


それ故、人間は『恥を掻く』ことに対して、社会から追放された時のような絶望感や恐怖を覚えるのだそう。これが、『恥』の精神的苦痛の正体です。


恥を掻く場所が移住先や自分にとって慣れない場所だった場合

『恥』が自身の社会的価値観に直結するような、もともとは生死に関わる重要な決定を下す役割を持っていた感情だと知った今、頼れる人がほとんどいない移住先での『恥ずかしい』体験がどれほど衝撃的か、想像がつくのではないでしょうか?


また、前述の記事にも紹介したように、自分に馴染みがある環境下における自分像と、新しい環境下で見劣りする自分像のギャップに、さらなる恥ずかしさや自己嫌悪、ショックを受けても無理はありません。ブレネー・ブラウン博士によると、自身が自分の望む形よりも劣った姿で見られた時に人間は最も強く『恥』を経験する、と話しています。


研究者によると、『恥』を経験した時には、精神的苦痛だけでなく、身体的な苦痛も伴う場合があるそうです。トラウマ体験のように、それは心に体に深く記憶されます。


そして、それを避けようと(わたしのように)ビクビクしながら生活をしてしまったり、大きなストレスを抱えて悩んでしまったり、悪循環が続いてしまう可能性があるのです。


もしかして自分に厳しすぎないだろうか?試して欲しい『セルフ・コンパッション』の考え方

それではどうやって、この恥ずかしい感情に対処していけばいいのでしょうか?


『恥』の感覚は、自分自身の価値観に対して、自分がそれをどう捉えるかが大きく影響して起きているもの。つまり『恥』とは、自分が自身に批判的・ネガティブな見方をしているから起きることでもあるのです。ということは、自身の自分に対する見方をもっと親切に暖かいものに変えていくことが出来れば、それが解決への糸口となります。


恥を掻いてしまった自分に優しくなるための方法として、自分を愛する力=『セルフ・コンパッション』の研究第一人者クリスティン・ネフ博士の提案する三つのセルフ・コンパッション要素をご紹介したいと思います。



⒈ Self-Kindness vs. Self-Judgment: 自分をジャッジすることをやめて、自分に優しくなって。


自分に厳しい評価を下してはいないだろうか、今一度、自分のしでかした『恥ずかしい』体験を振り返り、恥を掻いて苦しんでいる自分を理解し労わってあげましょう。


そして恥ずかしい体験をしてしまった自分を責めないで。恥ずかしさからくる精神的苦痛を和らげるために、今の自分に何が出来るのか、気持ちをなだめる方法や心地よくなれる環境作りに意識を集中してみることを試してください。



⒉ Common Humanity vs. Isolation:自分一人に起きていることだと孤独を感じるのではなく、人類みなに共通することだと思ってみてはどうだろうか?


「なぜ自分だけが?」とか「こんなことバカな自分しかしない」と思ってしまっていませんか?


完璧な人生なんてどこにも存在しないし、完璧に物事をこなせる人なんてない。みんなどこかで失敗や痛い経験をしているのです。誰も『恥ずかしい』経験をしないに越したことはないけれど、失敗はどこにでも起きます。恥ずかしい思いをしているのは、あなただけじゃないから大丈夫、ということを覚えておいてください!



⒊  Mindfulness vs. Over-identification: 問題自体に過剰反応するのではなく、自分が経験している苦悩の過程や自身の感情に何が起きてるのかをただただ見つめてみてはどうだろうか?


恥ずかしい経験自体を大きく捉えてしまうと、ついついそれを避けるように行動したり気持ちを抑圧してしまったりする。問題を避けるのではなく、『恥ずかしい』経験をしたことにより湧き上がった自身の様々な葛藤や苦悩の過程をただ単に素直に受け入れてあげてはどうでしょうか。


ネフ博士によると、苦痛は自己批判から来ている場合が頻繁にあると説明しています。例えば、「自分が至らないからだ」とか「自分がバカだからだ」など、自分を蔑む言葉を自身に投げかけることで、自己批判の世界で彷徨い続ける状態に陥ってしまう、と。


だからこそ、辛い思いをした時は、そんな辛い思いをしてしまった自分を労って、深くその時の葛藤をありのまま理解してあげることが必要なのだと話しています。そして、それを理解して初めて、対策が取れるようになる、と指摘しています。


移住に恥ずかしい経験はつきもの。でも、そこからの立ち上がり方は、自分次第でどうにでもなる

わたしも対人恐怖の時、なにもかも自分の「言語力の無さ」や「場慣れしていない挙動不審さ」を原因にして、自分を責めていました。周囲と自分を比較して自己嫌悪にもなりました。でも、それは唯一の理解者である自分を自身で陥れていた状態。今思うと、自分自身にとても可哀想なことをしていました。


わたしがそこから立ち直った第一歩は、自分の努力を褒めることから始まりました。


「第二言語で周りのクラスメートとやり合ってる自分て案外すごい」とか「車運転出来てすごい」とか、ちょっとしたことでも良い。そういう小さな自画自賛の積み重ねで、自分を楽にしていったことで、『恥ずかしさ』という恐怖の呪縛から解放されました。そして、Gary John Bishop 氏の冒頭に述べた抜粋にもあるように「バカで愚かな自分の何が悪い」と開き直った時から、恥ずかしさの恐怖が消えて行きました。恥ずかしささえ乗り越えられたら、逆に何でも出来るような気分を知っていき、知らないことをチャレンジすることが楽しくさえなりました。


さいごに、移住という大きな環境変化は、日本国内、海外、どこにいってもとても辛いものです。そして、わたしが経験したような、自分一人だけが恥ずかしい思いの連続を味わっているような、とても孤独で惨めで悲しい時期を経験されている方もいるでしょう。


この記事は、わたしと同じような経験をして悩んでいる方が少しでも希望を持つことができればと思いながら書きました。長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。



クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。

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参照文献:

Gary John Bishop (2017). Unfu*k yourself: get out of your head and into your life. Audible. Audiobook.


Brene Brown (2018).Dare to lead: Brave work.Tough conversations. Whole hearts. Audible. Audiobook.


Joseph Burgo (2018). Shame: free yourself, find joy, and build true self-esteem. Audible. Audiobook.


Kristin Neff (2011). Self-compassion: the proven power of being kind to yourself. Audible. Audiobook.


セルフ・コンパッション:あるがままの自分を受け入れる(日本語版)

クリスティーン・ネフ著


本記事で紹介した、クリスティーン・ネフ博士の著書。本人の経験談と共に語られる、自分に優しくなるための秘訣がたっぷり詰まった良書です。精神論だけにとどまらず、実際の研究や効果の実績が裏づけとして紹介されているので、心理カウンセラーの方にも必見の本です。



Kristin Neff (2014). The three components of self-compassion. Youtube.

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