話し上手、聞き上手というように、人の話を聞くのが好き、話す方が好き、など人により会話の傾向はさまざまです。
聞き上手さんの中には、家族やお友達の悩み相談を親身に受ける心理カウンセラーのような役割を果たしている方もいることでしょう。
しかし、お友達と会うと家に帰ってきてどっと疲れてしまう‥、とか、人付き合いが億劫になって関係をいきなり絶ってしまうことが続く‥、など思い当たる人はいませんか?
基本的に、人の悩みを聞くことは大きな精神的労力を伴うことであり、とても疲れること。相談の聞き方には、自分の限界を知っておくことが大切なのです。
そこでこの記事では、相談相手に疲れ切ってしまう前に知っておきたい、相談が苦ではなくなるための心構えを紹介したいと思います。
気にしておきたい自分と相手との心の距離感、境界線・バウンダリーの話
人の悩み相談が疲れる大きな原因。それは相手と自分との心の距離感を決める境界線・バウンダリーの線引きが上手く出来ていない可能性が第一に考えられます。
境界線・バウンダリーとは、文字通り相手と自分の間にある見えない心の線引きのこと。これは、相手に要求されたことが、どこまでだったらストレスなく行えるのか、どれ以上だとストレスに感じてしまうのか、自分の心の許容範囲とも言える存在です。
はじめは些細な愚痴から始まった話が、だんだんと発展していって相手の話がいつまで経っても止まらず‥内容が内容だから、なかなか話を遮れず、結局3時間も4時間も悩み話を一方的に聞いてしまった‥。
このような長時間の相談に、疲れない人はいないでしょう。
これがもし、一回きりのことで、普段はお互いが話を聞くときもあれば話をするような関係がその相手とあるのであれば、それ以上の疲労感は起きることも少ないと思います。
問題は、いつもいつも、相手が自分のことをカウンセラーのように相談相手に使ってくる一方的な相談関係がある場合です。
この場合、相談した側は話を吐き出した後スッキリしても、相談を受け続けた方は、自分の時間を無駄にしているような無念感、自分の時間をリスペクトしてくれない相手への苛立ち、自分を大切にされていないような自己否定の感覚など、嫌な感情を経験してしまうことになります。
そのため、このような相手との会話では、自分の、相手の話を無理なく聞ける範囲(時間や相談内容の種類)を理解しておくこと、そして相手にそれ以上自分の時間を使わせないために、相手の相談をかわしていく技術が必要になってきます。
トラウマの話
皆さんはトラウマという言葉を聞いたことはありますか?
例えば、大きな事故に合ったとか、犯罪被害にあった、など自分の生死に直結するような体験。PTSD(外傷後ストレス障害)の原因にもなる大きなトラウマについて、馴染みがある方も多いかもしれません。
しかし、トラウマとは、自分の心の傷を指す言葉として使われる言葉であり、大小様々な大きさのものが誰の心にも存在しています。そして、人の心はそのトラウマに敏感に機能しています。実はこのトラウマが、人のお悩み相談を聞くことに疲労感を及ぼす原因になっていることがあるのです。
相談内容を聞いているうちに、
・登場人物の特定の誰かに異様に強い感情(嫌悪感・憎悪など)を感じる‥。
・とにかくアドバイスをして助けてあげないといけない必死な気分になる‥。
・なんだか分からないけれどすごくイライラする‥。
これらの気持ちは、もしかしたら、自身が抱えている過去のトラウマ(自分が過去に経験して嫌だったこと、心の傷として残っていること)が、相談内容を引き金に刺激され無意識的に思い起こされているような状況かもしれません。
例えば、相談内容自体がただの夫婦の痴話喧嘩だったとしても、それが自分が子供の頃に大っ嫌いだった両親の喧嘩のスタイルにすごく似てることで、その時の辛かった記憶が蘇ってきてしまう‥。それは、まるで、過去の古傷をグイグイ刺激されているような感覚に近いかもしれません。このような現象が起きることで、心が疲弊しまう場合があるのです。
そのため、相談内容を聞いているうちに、自分が必要以上の感情的な反応を起こしていると感じていないか、自身をモニターしていくことが大切になってきます。
心理カウンセラーはどうしているのか?
心理カウンセラーは、相談を聞くことの大変さを理解しています。そのため、スケジュールを無理に組まないようにしたり、時間を絞って相談を聞いたり、時間に見合う料金を設定するなど、疲れないための工夫をしながら仕事をしています。
また、自身のトラウマが、相談者の話によって引き起こされないように、自身がカウンセリングに通うなどして自己分析をしトラウマの消化や理解を深めていくことを常に心掛けています。そのため、なるべくニュートラルに相談者の話を聞いていくことが出来るのです。
相談者の人生の意思決定に踏み込んで良いのは相談者だけ
カウンセリングの父と呼ばれるカール・ロジャーズは、相談者と相談を受ける者の関係をこのように説明しています。
"The client is the expert in their own life."
(クライアント(相談者)は彼らの人生の一番の熟練者・専門家である)
また、以前勤めていたDVシェルターではこのように諭されたことも。
"You cannot work harder than your client."
(クライアント(相談者)よりもたくさん働くことは出来ない)
DV被害者の支援では、様々な要因によるクライアントさんの変化への抵抗が強いため、一度加害的なパートナーの元を逃げ出せたとしても舞い戻ってしまうケースも多々あります(実際にDV被害者の方が最終的に加害者パートナーの元を抜け出すには平均的に約8回の別離試みを繰り返すとされています。)それに無力感を感じてしまったり、自分の能力不足だと責めてしまったりする支援者も多くバーンアウトが起きやすいのです。
この言葉は、カウンセラーや支援者の役割は、クライアントさんの人生に良い変化を作るためのサポートをすることしか本来は出来ず、あくまでもクライアントさんの人生を変えられるのは彼ら自身だけであること、を説明しています。
もし、仮に大きな力を行使してクライアントさんを引き離したとしても、クライアントさん自身が自分の状況や決断に納得しない限り、本当の解決は起きません。これは相談の大小限らずどんなことにも言えて、例えば、良かれと思って親身にアドバイスをしていたつもりが、逆に苛立たれて当たられたり、逆恨みされたり、逆効果になった経験を持つ方もいませんか?
そのため、あくまでも『相談者の人生を見守る役』という一歩引いたこのスタンスを持っておくこと。それが無いと相談者の人生に踏み込み過ぎてしまう、バウンダリーを超えた独りよがりな結果が起きてしまうことになります。
おわりに
人の相談に乗るということは、簡単なようでいて、実はとても難しいことです。
自分のトラウマの引き金を把握しておくこと、そして、自分の相手にやってあげられることの限界を知っておくこと。
そして、何よりも、相手に対して自分のニーズを伝えることを恐れないこと。
「お子さんに酸素マスクをつける前に、まず最初にご自分に酸素マスクを着用してください。」
飛行機の非常時用の機内放送で流れるこのセリフにあるように、まずは自分のニーズが満たされていない限り、目の前の相手を助けることどころか、共倒れになってしまいます。
そのため、人の相談に乗ることが、自分に大きな負担を与えている‥、自分を犠牲にしてまで‥、となっている人は、自分が今相談を聞ける状況にいるのかどうかを理解することが大切です。その上で、話題を切り替えたり、相手との付き合い方を変えたり、場合によっては心理カウンセリングを紹介するなど、相談者の相談を一身に受け過ぎない負担の少ない関係を作っていくようにしましょう。
長くなりましたが、人の相談に乗ることがどういうことなのか、わたしの経験を交え話してみました。人の相談に乗っていて疲れてしまっている‥という方に、参考になる部分があれば幸いです。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
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参考文献:
ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼンド著
「敬虔なクリスチャンが相手のためにやってあげすぎてしまう傾向を抱えやすい」ということに着目したところから、聖書の教えと照らし合わせながら境界線・バウンダリーを解説する名書。バウンダリーとは何なのか?健全なバウンダリーの引き方やバウンダリーを守るための対策など、これを読んだら人間関係が楽になること間違い無しな情報を網羅した良書です。
カール・ロジャーズ著
今回の記事でも触れたカール・ロジャーズのセラピスト・カウンセラーが持っておくべき考え方が深く理解出来る本。心理専門的すぎる話もあるかもしれませんが、彼がどうして「クライアントの人生はクライアントが一番よく知っている」というスタンスを確立していったのかについての説明や、効果的なカウンセリングの在り方やテクニック等の論理的解説が盛りだくさんです。
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