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シニア世代のためのアートセラピー:アートの5つのアプローチ方法



アートセラピーというと、子供のためのセラピーを思い浮かぶ方が多いかもしれません。しかし、イメージとは裏腹に70代を超えたシニア世代の方にもとても効果のある心理セラピー療法でもあります。


今回の記事では、アメリカ・ロサンゼルスのアダルトデイケアセンターに勤務経験のあるアートセラピストでもある著者が、シニア世代に向けたアートセラピーの様々なアプローチ方法をご紹介しようと思います。


そもそもアートセラピーとは?

全米アートセラピー資格委員会 (ATCB) によると:


"アートセラピーとは、芸術媒体や創造力を使う過程、そして出来上がりの作品を通じて、感情や葛藤の処理、気づきの理解、行動の管理を学び社会的スキルの習得、現実理解、不安の減少、自己評価の上昇を育んでいくための、対人サービスにおける専門分野であり、人間発達、心理学理論、そしてカウンセリング技術の知識を基盤に行われている治療方法" と説明しています。


アートセラピーは、芸術表現やアート制作などの非言語コミュニケーションを使うことで癒しや自身の人生の向上を目指す、クライアントが自身の心に安全にアプローチすることを可能にする心理療法の一つです。


アート制作を通じ、クライアントはこのようなメリットを得ることができます。

  • 圧倒されるような感情や危機的状況に対する反応、トラウマなどのストレスに活路を見出せる。

  • 洞察力を身につけることにより自身をより深く知ることができる

  • 自身の人生の充実度をより深く達成できるようになる

  • 日々の人生が豊かになる

  • 人間的変化を経験することができる


右脳の作用について

脳科学の研究が進むにつれて、アートセラピーの脳科学的な効果が知られるように。


例えば、右脳には、無意識に記憶された体感情報や目から入った視覚情報など、言葉にははっきり識別出来ない感覚重視の情報が蓄積されることが研究から分かってきました。


それにより、それら右脳に蓄積された情報にアクセスするには、言葉よりも同じように目から入る視覚の情報でコミュニケーションをとる方が効果的なのではないか?と考えられるように。


言葉にしにくいトラウマや押し殺してしまった感情など、説明し難いことでも、アートを使うことにより、簡単に表面化することが可能です。この考え方が現在のアートセラピーに大きく取り入れられています。


シニア世代へのアートセラピーアプローチ

それでは、実際にどのような目的でアートセラピーをシニア世代に使うことが多いのでしょうか。具体的なアプローチ例を5つの項目に分けて紹介します。


⒈ 誰かを幸せにするためのツールとしてアートを使う


シニア世代がアート制作に取り組む大きな動機の一つに、『誰かの役に立つこと』が挙げられます。それは、特に子供や孫の役に立ちたいと思う気持ちが強いそう。


みなさんは祖父や祖母から手作りの陶芸品や編み物のセーターやブランケットをもらったことはありませんか?


完成度の高いアート作品を喜んでくれる受け手がいることが、社会へ認識されたような達成感や肯定感、自信を得ることが出来ることが指摘されています。自分が作ったものを誰か(特に自分が愛する存在)に喜ばれたら、とても嬉しくなるし、幸せな気分になりますよね。


わたしの働いていたデイケアセンターでは、毎年入所者の美術展示会があり、展示会では入所者の家族や友人が呼ばれ、ケータリングもある大々的なパーティが開かれます。自身の描いた絵を見て喜んでくれる人がいる様子は、誰もが嬉しいものです。毎年、その美術の展示会のために張り切って絵画作品や彫刻を作っている入居者もたくさんおり、アートが人生において大きなモチベーションとなっていることを実感しました。



⒉アートが新たな『意味』を気づかせてくれる


シニア世代の人たちには、他の世代の人があまり経験しないことがあります。それは、他の世代の人たちに比べて沢山のものを失っているという点。加齢につれ経験する自身の体の不自由さだったり、運転や仕事など出来ないことが増えたり、友人や家族の死だったり、年齢を重ねることにより経験する喪失感は、どうしても他の世代の人たちに比べて増えます。


自身が経験していることが今の人生ステージにおいてどのような試練の意味を持っているのか、置かれている立場に『人生の意味』を考えるきっかけを与えてくれる方法の一つとして、アート制作があります。


例えば、箱庭療法だったり、夢から創造したストーリーを絵に描いてみたり、もしかしたら自分の頭の中に内在しているかもしれない、自分の気づかなかった自身のことや、何かメッセージ性が含まれているもについて、新たな発見や気づきがあるかもしれない。そのツールの一つとしてアートがあるのです。


また、自身が誰にも言えずに抱えてきたトラウマや葛藤、後悔が、アート制作での気づきを経てポロっと出てくることもあります。それを一緒に消化する手伝いをするのがアートセラピストの役目でもあります。このアートのアプローチには、カタルシス(浄化)の目的も大きく含まれています。



⒊アートを自身を振り返るきっかけに


アート制作の大きな特徴は、作品が手元に残るということ。例えば、自身の経験したことや達成してきた功績など、それが実際にどういうものなのか、手元に残るとしたら、ワクワクしませんか?


思い出話を語るのはもちろん楽しいけれど、その功績を伝える内容のものが目に見えて存在しているとしたら、どれだけ気持ちが具体的に表現されるようになるでしょうか。過去の写真や思い出のレコードジャケットのカバーデザイン、若いころ書いたラブレターなど、全て集めて一冊の人生アルバムを作る等、『ライフレビュー』または『回想セラピー』とアートを掛け合わせたアートセラピー技法もあります。


分厚いアルバムや思い出集を見て、自身の経験をより確実に噛みしめることが出来る。アートが作品として、手にとって触れるもの、という点がとても大きいです。そして他者(とくに子供や孫)と自身の人生を共有出来るのも、大きな喜びや肯定感、安心感へと繋がります。



⒋アートはコミュニケーションの手段


シニア世代の特徴として、認知の衰えや若い世代との共通項や接点の少なさから、社会からどんどん孤立していくことが指摘されています。


認知症や耳が遠くなったことからくる言葉の不自由さや世代間の文化の違いから、なかなか会話をするだけでは理解し合えなくなることも。そんな時に使えるコミュニケーション手段として、アート制作があります。アート制作や出来上がりの作品を通じ、心と心で理解しあうことは出来ます。シニアの方がアート制作に乗り気出なくても、セラピストが目の前で作る工作だったり絵だったりを見て、思わず口出ししてしまったり、タイトルをつけたくなったり、交流を持つきっかけがとても多いのがアートの持つ不思議な特徴でもあります。


アート制作の過程や出来上がりの作品の色や形を見ながら、目の前の状況をただ楽しむ。アート制作を通し、ひとときのコミュニケーションを他者と分かち合うことが出来るだけでも、生活から会話が消えていた人にとっては大きな精神的安心材になります。



⒌アートを感覚を刺激するものとして使う


アート制作には手先、視覚、臭覚や触感、聴覚など体の感覚5感を使います。手先に伝わる制作物の感覚は脳を刺激し、視覚から入った情報は体に染み付いた5感を刺激します。これが脳内の神経を刺激し、脳を活性化させる効果があり、認知症の進行の遅れや脳トレの機能を果たします。



おわりに

上記に挙げたのは、シニア世代に特化したアートセラピーのアプローチの方法の一部の例です。


もちろん、個人により抱えている内容は大きく違うため、実際にはこの5つのパターンに当てはまらないアプローチを必要としている方もいます。また、個人のアート経歴や宗教や文化背景、そして身体的自由度によっても、どのようなアプローチがふさわしいのか大きな差があり、セラピストの状況に応じた柔軟性も求められます。


最終的には、個人の一番必要としている心的サポートと、本人が楽しめるアート制作や興味のあることを組み合わせてセラピストがアートを提案していくことが中心となるでしょう。


この記事が、シニア世代や認知症患者さんにアートを使いたいけれどどう使っていいか模索中のセラピストの方やアートセラピーに興味のある全ての方のお役に立てれば幸いです。



クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。

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参照文献:


Art Therapy Credential Board website

https://www.atcb.org/


Arrington, D.B. (2006). ART. ANGUST, AND TRAUMA. Charles C Thomas Publisher, Ltd. Springfield: IL.


Elkins-Abuhoff, D.L. & Gaydos.M. (2018). Medical art therapy research moves forward: a review of clay manipulation with Parkinson’s disease. Art Therapy: Journal of the American Art Therapy Association, 35(2)pp.68-76.


Malchiodi, C.A. (2007). The Art Therapy Sourcebook. 2nd. McGraw-Hall. New York: NY.


Perry Magniant, R.C.(2006). Art Therapy with Older Adults: A Sourcebook. Charles C Thomas Publisher, Ltd. SPringfield:IL.