みなさんは、自分の身体が好きですか?
日本に住んでいた頃のわたしは、大柄の体格のためか見た目についてコメントを言われることが多く、それがコンプレックスで、着るものを気をつけたり姿勢を猫背にしてみたり、常に目立たないように意識しながら生活していました。
わたしとは違う悩みでも、身体へのコメントを受け、気にしてしまった経験を持つ方はとても多いのではないでしょうか?
この記事では、自分の身体に何かしらのコンプレックスを感じているすべての人に向けて、本当の『美』とは何なのか、美への再定義を提案するリンジー・カイト博士のTEDスピーチを参考に、自分の身体に前向きに向き合うための方法・ボディポジティブな生き方についてを紹介したいと思います。
ボディポジティビティとは?
ボディポジティビティ(body positivity) とは、“All bodies are good bodies(全ての身体は良い身体)”というメッセージを軸に、誰もが皆、自分の身体に愛を感じる価値を持っていると提案する考え方です。
体のサイズの大小や、背の高低、肌の色、どんな体の作りをしているかなど、誰もその人をジャッジすることも、優劣をつけることも意味を持たない。誰もが皆、自分自身に愛情を掛ける価値を持っているし、それを誰かが邪魔する資格は無い!という視点が、このボディポジティビティのメッセージです。
そこには、世間に溢れるメディアのイメージから作り出された『美』への価値観に対する、問題定義の意味も含んでいます。
世間が作り出す『美』が伝える間違ったメッセージ
メディアの作り出す『美』のイメージ。そこには、我々の身体があたかも品物のようにモノ化して見られているような、まるで『美しさ』とはメディアが持ち上げるある特定の身体つきを持つ人しか名乗れないような、そんな歪んだメッセージ性を含んでいます。
自分をモノ化して見ること(self-objectification)とは、自分の身体を他人の目線を通して見ること。
女性を対象にしたある研究によると、女性は自分をモノ化されて見られている時に以下のパフォーマンス能力が落ちることが分かったそうです:
算数や読み書き
スポーツ
重いものを持ち上げる
それは、自分の姿を他人の視点を通して見たと意識した途端に発生するそう。
それだけ、他人から見られた自分のボディイメージがパフォーマンスに影響するなんて、とても怖いですよね。
リンジー・カイト博士は、自分の身体そのものというよりも、自身が考える自分の身体(ボディ)のイメージ、つまり世間が作り出した『美しさ』を基準に評価した自分のボディイメージに、多くの人は苦しめられていると指摘しています。そして自分の身体のイメージをよく見せるために本来の自分でない姿を演じたり、メディアが作り出す『美しさ』に近づこうと外見を繕う努力をしたりしてしまう、と。
自分の身体は飾り物ではない、人生を切り開くための手段なのである
人の健康は、身体のサイズやBMI、体重の数値よりも、身体を使った運動をするかどうかによって大きく左右しているのだそう。
つまり、健康を維持し内面から活力を満たすためには、見た目はほとんど関係ないのです。むしろ自身が自分の身体を管理出来ることが大きな自信やエンパワーメントに繋がる重要な作業なのです。
カイト博士は、”My body is instrument not ornament.(自分の身体は飾りものではなく手段なのである)”とし、自分の身体をどう使ったら自身が強く楽しく生き生きと生きることが出来るのか、そのために自分の身体を使うべきである、と話しています。
ボディイメージレジリエンス:ボディイメージを良い方に変えていく力
自分の身体の良さを受け入れ自分らしく生きている人には、共通点があります。それは、ボディイメージレジリエンス(Body Image Resilience)を持っていること。そして、そこに辿り着くまでに、ボディシェイム(身体を恥じる)経験をしたことがある過去を持っているということ。
カイト博士によると、ボディシェイムを経験した誰もが通るのは、この3つのどれかだといいます。
自分の身体をどんどん傷つけ蔑んでしまう
社会の望むであろう『美くしさ』に近づこうと外見磨きに励んだり、反対に、周囲から自分を遠ざけて問題から向き合うことを諦めてしまうこと
自身の心と世間が作り出した『美』に対する考えに疑問を持ち真っ向から挑戦すること
ボディイメージレジリエンスは、その三番目の道を選択して初めて実現するものであり、それはありのままの自分を愛する力へと繋がります。
カイト博士は、ポジティブボディイメージ(前向きな身体のイメージ・positive body image)は、自分の身体のイメージを他人の思う『美しさ』を基準に信じることではない。自分の身体はたとえどんな見た目であろうとも美しいのだと知ること、そして自分の身体を愛し自信を付けることが、ポジティブボディイメージなのだ、と話しています。
さいごに
常に他人目線で、自分の身体を気にしながら窮屈に生活していたわたしですが、アメリカに来て様々な体格や服装・髪型の人、自分のような体型の人が周囲を気にせず伸び伸びと自分がしたい格好で街中を歩いているのを見て、自分の身体に抱いていた考えが変わっていきました。身体を使ったアクティビティや運動が日課になったのも、自分の身体に愛着を持つきっかけになったように思います。
しかし、比較的個人の服装や格好の自由度が高いアメリカでさえも、ボディイメージについての問題は長い間課題となっているトピックです。というのも、メディアの力がとても大きく、それに見た目や外見の価値観を左右されるような場面が今でも至る所に存在しているからです。
個人が自分の意思で、身体に対する見方を自分基準に変えることが何よりも大切です。同時に、人を見た目で評価しがちな社会に対して、社会の一員として疑問を投じる必要があるような気がしています。それはアメリカにおいても、日本においても言えることだと思います。
そしてそれには人の外見にコメントをすることが、どのような意味を含むのか。自分の発するメッセージが相手にどのような影響を与える可能性があるのか、深く考えていく姿勢も求められていると感じます。
皆さんは、この記事を読んでどう思いましたか?
この記事が、少しでも皆さんのお役に立てる部分があったら幸いです。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
参照文献:
ボディポジティビティ運動を紹介しているビデオ
リンジー・カイト博士のTEDトーク
リンジー&レクシー・カイト博士によるウェブサイト"Beauty Redefined"
ボディポジティビティの提唱活動や関連トピックを様々紹介しています。ウェブサイトを見る
お薦め作品:
ヘレン・ミレン主演、世界初「婦人会ヌードカレンダー」作りに挑戦した主婦たちを描いた実話の映画化。コメディタッチのハートウォーミングな面白いストーリーの中に、自分の身体をありのまま受け入れ愛することについて考えさせられる場面もあり、鑑賞後パワーがもらえる作品です。
Bossypants(英語)ティナ・フェイ著
30ROCKでもお馴染みのアメリカ人気女性コメディアン・脚本家のティナ・フェイによる自伝本。思春期を迎えた女性が通る体の変化に関することや自分の体を好きになるまでの過程、身体を客体化される経験、男性優位のコメディアン業界で道を切り開いていく様が、面白おかしく辛辣に語られる良書。彼女自身が語るオーディオブックがお薦めです。
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