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  • 執筆者の写真ヤス@BUNKAIWA

自分の身体は装飾品ではなく自己実現のための道具である:客体化社会に疑問を呈す。書籍"More than a body"レビュー


以前『ボディポジティビティ』についてを特集した際に紹介した、リンジー・カイト&レクシー・カイト博士が本を出しました。


"More than a body" (身体以上のもの)と題されたこの本。本中で語られる内容に、わたしは自分の今までの信じてきた世界観がガラリと変わるような、なんとも言えない戸惑いと居心地の悪さを感じました。


それは、決して悪い意味ではなく、どちらかというと自分の今まで当たり前と思ってきた偏見をピンポイントでど突かれたような、今まで自身が当然としてきた感覚がガラガラ崩れるような感じの不思議な疲労感を与えてくれたのでした。


そこで、今回のブログ記事では、この本のレビューも兼ねて、わたしが学んだこと、思ったことを自由に書いてみたいと思います。



"More than a body"の本で語られること

カイト博士姉妹は、ボディイメージと身体の客体化 (objectification) が個人の心に与えるネガティブな影響力についてを研究している第一人者。


一卵性双生児であることから常に小さい頃から外見へのコメントを投げかけられ、容姿を比較されてきたという彼女達。摂食障害にも苦しんできた過去を持ち、容姿に対する他人からのコメントが、自身の身体に対するボディイメージにどのようにネガティブに作用するのかを研究しています。


彼女達の本は、身体の客体化がどのように起き、メンタルヘルスに影響を与えていくのか、その理論を説明するところから、そもそも人は何を基準に他者の身体をジャッジし良し悪しを決めているの?という疑問へと繋がり、そしてそれは、個人の話だけではなく家族、コミュニティ・学校、社会のあり方の話へと発展していきます。



わたしたちは何を基準に美を作り出しているのかに疑問を持つ必要性について

わたしたちの生きる社会では、「ある一定のタイプの体型」が良しとされ、それを基準に美が決められている。でも、様々な身体つきの人々が存在する世の中において、なぜ、そのような価値観が存在することをわたしたちはそもそも当たり前だと思って生きているの?


「ある一定のタイプの体型」を良しとし、それに該当しない身体を比較し批判する価値観を持った社会で生きる我々は、小さい頃から、無意識のうちに、自分たちの身体を他人の身体と比較しながら、他人から見た自分の身体を内在的に意識しながら生きてしまうのです。


この社会全体が構築してきた、自身の身体をどう見るか、その際の『前提』にある価値観にこそ、ボディシェイム(身体に感じる恥)への根本的な病理が隠されている、と博士たちは語ります。



客体化の怖さとは?

自身の身体を物を見るように、他人からの視点で見て評価することを許してしまう感覚、それは客体化と表現されます。


客体化された身体は、まるで店頭に並ぶ商品のように、見た目を隈なく他の商品と比較され、揶揄され、ジャッジされる感覚を生み出します。そしてそれは、「ある一定のタイプの体型」から外れてしまうことに対する恐怖心や劣等感を作り出すきっかけにもなります。

他人から見られた時の自身の姿が、自身の価値観のような錯覚を生み出すこの現象により、人はより他人から見た自身の見た目を気にし、その価値観に支配されていってしまう。


結果として、多くの人は、本来の自分がしたいこと、本当に実現したいことよりも、ボディイメージをどうしたら変えられるだろうかを優先に生き方を変えてしまう場合もある。


博士達は、これは一個人の考え方の問題というよりも、個人が育つ際に影響を受けてきた親やコミュニティの価値観、そのまた親やコミュニティの価値観など何世代にも渡って社会が構築し良しとしてきた社会背景による負の連鎖であると説明します。



女子と男子の服装に対する校則の違いに疑問を持とう

ボディシェイムは、性別問わず苦しむ方がいるものの、「自分の身体をどれだけ比較に晒された経験があるか」という点が大きく影響しており、SNSを見ても分かるように、女性の方がボディシェイムに晒される機会は圧倒的に多いそうです。


女性の身体は、出産など身体に大きな変化を迎える機会も持つのもあって、それは、メディアでの芸能人の報道の仕方を見ても一目瞭然です。


しかし、博士が指摘しているのは、学校校則の男女非平等な性質。


博士達が注目したのは、中高校生の服装の校則に、男子生徒に課せられる服装規定と、女子生徒に課せられるものには雲泥の差ほど大きな違いがある学校がとても多いということ。


一般的に、女子生徒に課せられる服装に関する校則は、男子のそれよりも圧倒的に多く、例えば、スカートの長さ、靴下の長さ、袖の長さ、露出度、ひどい場合は下着の色まで。


そしてそれらの多くがなぜ存在するのかというと、女子個人のためというよりも「男子生徒を性的に誘発しないため」といった名目の元、他人視点から見た女子の身体に対して、他人(特に異性)が勝手に感じるであろうことを理由に作られたものであったそうです。


この、服装に関する校則に隠されたメッセージは、女子の身体に対して、自分の身体が相手に何か特殊な気持ちを引き起こす可能性を秘めていることを必要以上に意識させるような効果があるのではないか。


加えて、「相手を性的に刺激するから」という理由を元に作られた校則は、本来であれば、見た側(受け取り手:この場合、男子生徒)に教育が必要なこと。であるはずなのに、一方的に外見を見られた側が、相手の気持ちを考えて外見を変えていかなければならない、という風潮を教育現場が認めているのは、まさに身体の客体化を肯定し推進している考え方とも言えるのではないかと博士は指摘します。


博士は、この解決案として、男女性別関係なく、誰にも同じ基準の服装と、それに伴う服装の校則ルールを課すことを提案しています。実際、この考え方を取り入れ、ノンバイナリーな制服のデザインに、ノンバイナリーに生徒一律に同じ服装規則を課す学校も少しずつ増えてきているようです。



健康的な身体って?肥満と健康の関係とは?

身体について話す際、欠かせないのが健康の話。


博士達は、多くの人が、身体の体型を健康に結びつけて考えていることも、ボディシェイムを増長する原因であると説明しています。


というのも、今まで、肥満=不健康、といったイメージが世間的にとても強く、メディアも広告もこぞって、痩せている身体が健康体である、という偏見を積極的に作り出していたからです。


しかし、最近の研究では、健康を左右する一番の要素は、実は、体重ではなく、生活に有酸素活動がどれだけされたかということだったそうで、よく一般的に使われることの多い身長と体重の比率を図るBMIの信憑性は、逆にほとんど無いことが証明されているそうです。



自分の身体は装飾品ではなく、自己実現のための道具である

「自分の身体を愛そう」というボディポジティビティが提案された際、「自分の身体がどのような形でも美しい」という肯定のメッセージと共に、


  1. だから、外見に囚われず自分らしい生き方をしていこう

  2. だからこそ、自分の身体・パーツの美しさを肯定し発信していきたい


という価値観の違うグループが出来ていったようです。博士達は、①のメッセージを主張する側であり、②のグループの中には、一見同じような考え方のようでありながら、自分の身体がどう他人から見られるかを意識した視点を強調するあまり、客体化を解決していくどころか、客体化を助長することになってしまった活動も見受けられてしまったと説明しています。


そのような相反するメッセージ性があることと、「ボディポジティブ=身体を肯定していかなければ」というニュアンスを内包するプレッシャーから、最近では、ボディポジティビティの代わりに、ボディニュートラリティ(Body Neutrality)という、自分の身体を肯定も否定もせず、ただ中立的にありのままの存在として受け入れていこう、という考え方も増えているそうです。


客体化は、他人から見た自分の姿を意識することで、自分の身体を装飾品のように扱い、他人からの評価を期待する生き方を作り出します。


しかし、自分の内面に湧き上がる気持ちを大切に、自分のしたいことを実現することを可能にしてくれる存在として、自身の身体をありのままの姿で認め、大切に使いながら生きる生き方が出来たら、どれだけわたしたちはボディイメージへの恐怖から解放されるでしょうか。



おわりに

この記事では解説しきれませんでしたが、博士達が説明するわたしたちの日常に蔓延する客体化の例たちが、「うん、そうだよね」と思えるもののみならず、「確かに…」というものや、「え、そんなことまで客体化なの…?」と、自分の生活で当たり前にしてきたことにまで至り…。その自分の無意識な有害性が照らされて居心地が悪かったんですよね。


これは、無意識に行っている差別、マイクロアグレッションを指摘された感覚にも近いかもしれません。


博士が説明するように、「自分を自分本意で自分らしく生きる生き方」って頭ではわかっていても…もちろんそれは理想だけれども…。何重にも雁字搦めされたガッチガチの社会的な価値観や文化観、教育されてきたことを解き放していく、ってとても時間がかかることだな…と思いもしたのでした。


それに、人から見た自分の姿を意識することが100%悪かといえばそうでもないとも思うのです。むしろファッションなどの表現芸術は、他人から見たインパクトや相手からのフィードバックも含め自己表現の一環になっていると思うし、博士の考え方には賛同しながらも、少し極端すぎると言うか消化に時間が掛かるコンセプトもなきにしもあらずでした。


わたしは正直、博士達の考え方をどう咀嚼し、自分の人生に取り入れていけるかな、と読んでしばらく経った今でも考え中なのですが、自分の当前と思ってきた価値観に含まれる有害性を指摘し、社会のあり方へ疑問を投じてくれたこの本、とにかく面白かったです。


ボディポジティブ、ボディシェイム、摂食障害、客体化、男女差別、フェミニズムなどなど、興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。そして、もし読んだ方がいらしたら、どう感じたか、ぜひ感想を教えて欲しいです。


今後も、面白い本や気になった本を続々紹介予定です。皆さんもおすすめの本があればぜひ教えてくださいね。



クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。

 

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参照:


Kite, L. & Kite, L. (2021). More Than a Body: Your body is an instrument, not an ornament. Audiobook: HMH Audio.



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