みなさんは『レイシズム』に対してどのような印象を持っていますか?
住んでいる場所や環境によって、身を以てレイシズムを経験されたことのある方も、あまりどのようなものか実感がない方もいるかもしれません。しかし異文化交流を考える上で『レイシズム』に対しての見解を広げることはとても重要であり、避けて通れない大きな課題でもあります。
そこで今回の記事では、『レイシズム』について、実際の定義や種類(タイプ)、そしてレイシズムからくる精神的ストレスについて、レイシズムの持つ影響力を心理学の視点を通じて掘り下げてご紹介しようと思います。
レイシズムとは何か?
Racism
レイシズム、人種差別、民族的優越感
レイシズムとは、肌の色や民族背景を理由に相手を自分より劣っていると価値を低くみたり、卑下したりする信念・態度・行為・そして社会的システム的構造のこと。そして、見下す側と卑下されたグループの間に力関係が生まれている状態のこと。
レイシズムを語るにおいて、この『力関係』の差がとても重要なキーワードとなります。
なぜならば、この力関係により、常に力のあるものの声が一番届くような社会が作られます。それ故、常に優遇されるグループと、不遇を受けるグループの構造が出来てしまいます。優遇されるものはどんどん豊かな生活が送れる一方、不遇なものはどんどん搾取されたり不公平な対応を余儀なくされたりします。
アメリカの例では、同じ犯罪を犯した囚人が白人だった場合と黒人であった場合では、黒人の方が20%も刑期が長くなる、という統計が。
また、過去の人種差別政策で白人居住区と有色人種居住区が分けられたことにより、白人にはより住みやすく良い不動産や質の高い教育が受けやすい環境がありました。人種差別政策が無くなった今でも、不動産価値の差や教育水準の差が尾を引いて、白人と有色人種の間では大きな貧富の差を作ってもいます。
このようなレイシズムにより作り出された社会構造は、アメリカに限らず現代社会のいたるところで存在しています。
どのようなレイシズムがあるのか?
レイシズムには、大きく分けて二つのタイプが存在します。
⒈ Racial Macroaggression: 明白な攻撃性を伴うレイシズム
一般的に知られる『差別』の形。相手を卑下したり暴力を振るったり、明らかに攻撃者が、ある特定の人種や民族の者に対して差別の感情を抱き攻撃している場合です。
(例:ヘイトクライム)
⒉ Racial Microaggression: 自覚無き攻撃性を伴うレイシズム
自覚してかしまいか、僅かな意図があってか無意識か、とても分かりにくい状態のまま一方が異なる人種や民族の人に対して行ってしまう差別のことを指します。例えば:
ある特定の人種や民族に対して犯罪者とみなすような憶測や卑下の感覚を持つ(例:教授が「まさかこんなに頭が良いと思わなかったよ」と外国出身者や有色人種の学生に向けて発言)
「今の時代、レイシズムは存在しない」と、レイシズム経験者の被害体験を直視しない(否定する)発言をする
発言した本人にとってはレイシズムの意図はなかったものが、レイシズムを受ける側にとっては非常に重い衝撃となるのが、この自覚なき攻撃性を伴うレイシズム(Racial Microaggression)の特性です。
この自覚なき攻撃性はとても厄介なものであり、それには冒頭でも述べたように、社会が作り出した違う人種や民族グループ間の『力関係』が大きく影響しています。力関係が一方のグループに優位な状態が、メディアを通して世間の一般認識として普及している。それ故に、レイシズム発言をしていても、その事実に気付かない人が多いという点が、この自覚なき攻撃性を伴うレイシズムのとても難しいところなのです。
レイシズムの心理的影響力
一般的に、メンタルヘルスに負の影響を与える要因として、これらの要因が大きく影響していると指摘されています:
経済的困窮や不平等さ
近隣住環境
遺伝的要因
家族の歴史
人生の中で体験したこと-暴力に遭遇した時、そしてレイシズム
上記に挙げられているように、様々な研究から、レイシズムは人の心にネガティブな影響力を持つとされています。
そしてレイシズムのネガティブな影響力は精神的苦痛となって、これらの症状に関連していくそうです:
不安
鬱
その他心理的ストレス
トラウマの症状
身体的不調(血圧上昇や心臓疾患など)
レイシズム的トラウマ(Racial Trauma)とは?
レイシズムを受けて経験するストレスには、たとえ自身の生死に直接関わることでなかったとしても、PTSD(心的外傷後ストレス症候群:生死に関わるような経験をした時に受ける大きなストレスからくる心の傷)のような精神的・身体的衝撃を与えることがあります。そしてこれらの症状を引き起こします:
恐怖
過剰覚醒
混乱
恥や罪悪感
自己批判
頭痛など
レイシズム的トラウマの特徴として、たとえ自分は実体験をしていなくても、家族の誰かや、自身と同じ人種・民族グループの人が経験したレイシズムの話を聞くことによって、まるで自身がレイシズムに遭ったかのようにストレスを受けてしまう場合が多いことも指摘されています。
それは、社会システム構造が一部の人種や民族グループに不平等に出来ているために、過去に似たようなことを経験した積み重ねがあったり、「いつそれが自身の身に起きたとしても不思議で無い」と、被害者が自身をレイシズムの被害者に重ね合わせやすい状況が起きていたりすること(=蓄積効果(cumulative effect))が原因です。
そのため、レイシズムに対する精神的ストレスを当事者とそうでない者が一緒に話し合う場では、一度のレイシズム体験に焦点を当てるのではなく、両者が社会構造の不平等さについて理解し、自身の特権や偏見を振り返ることが不可欠なのです。
さいごに
この記事では、人種や民族の違いからくる差別『レイシズム』に焦点を当てて、レイシズムとは何なのか、そしてレイシズムがどのような心理的影響を人に与えるのかを紹介しました。
上記でも触れましたが、異文化間心理についてを語る上で「レイシズムの考えを抜きには話が出来ない」というのは、レイシズムの問題は、事故のように一つの大きなショッキングな出来事から起きている心の傷やストレスとは違い、日常生活を送る中で継続的に発生してしまう、本人には不可避な慢性的ストレスであり、それは一部の人種や民族に優位に働くように構築された社会環境があるために成り立っています。それ故、インパクトの大きさとは裏腹に、見落とされがちでもあるからです。
今回紹介したレイシズムは、人種や民族に対しての差別を指す言葉ですが、世の中には様々な境遇を生きる方に対してのマジョリティからマイノリティへの差別も同じように存在します。
自分が持つ差別意識や偏見がどのような影響力を持ち、相手との相互理解を阻む可能性があるのか、常に考えることが社会の一員である私たちに求められていると感じます。
みなさんはどう感じたでしょうか?
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
関連記事:
お薦め作品:
オレンジ・イズ・ニュー・ブラック (DVD)
アメリカNetflix制作のテレビドラマシリーズ。ストーリー自体がとても面白いためエンタメとしても楽しめますが、見事なキャラクター描写からアメリカの人種差別や弱者を作り出す社会構造をこれでもかと見せつけられる作品でもあります。人種差別は昔のこと、何が差別なのかわからない、と思ってる人に是非見て欲しいです。実体験を元に書かれた原作本からインスパイアされたオリジナルストーリーです。
オレンジ・イズ・ニュー・ブラック:女子刑務所での13ヶ月
パイパー・カーマン著
白人中流家庭で何不自由なく育った主人公パイパー。新人囚人が着る服の色=オレンジ色を纏う自分は『黒(人)』と同じ扱いになるという、社会的弱者の立場を表すニュアンスを含むインパクト大なタイトル。その内容も、社会的弱者がどのような差別を受けるのか、監獄にたどり着くまでのそれぞれ個人の抱える人生のストーリーがアメリカの闇と共に事細かに描写されているとてもセンセーショナルな話です。
参照文献:
Steven D. Levitt & Stephen J. Dubner. Freakonomics: a rogue economist explores the hidden side of everything. Narrated by Stephen J. Dubner. Audible, 2007. Audiobook.
Comments