• ヤス@BUNKAIWA

『自分らしく』がなかなか見つからないのはなぜだろう。ありのままをさらけ出すためのヒントをアートセラピーから考えてみる



自分の内なる気持ちを外に解き放つための不思議な表現の力、クリエイティビティ。

絵画やアート制作はもちろん、音楽を奏でたり、ダンスを踊ったり、演技をしたり‥。

クリエイティブな活動は、喜びや楽しさ、癒しになるだけではなく、表現を通じて経験する自分と向き合う時間は、自分の知らなかった一面に気づくきっかけを与えてくれることも。

『自分らしく』生きていくには、自分の個性や価値観、自身の存在意義など、自分が本当に大切にしたい『自分像』への理解力を深めていくことが必要です。

しかし、この世の中には、まるでクッキーのくり抜き型のように社会が求める『型』が存在しているような、そしてその型に当てはまらないといけないような雰囲気がありませんか?

一度この型に当てはまるような教育をされると、自分が本当にしたかったこと、本来の自分の求める姿が分からなくなり、『自分らしく』が見つからない。そんな状況に陥ってしまう方も少なくないように感じています。

わたしもそんな一人でした。そしてその『型』は、アートセラピーを学ぶ中で大きな障害ともなり、大きな踏石ともなり、自分に向き合い成長するきっかけを与えてくれたのでした。

この記事では、わたしがアートセラピーを学んで気づいた、自分を受け入れるためのヒント、自分らしさをさらけ出すために必要なこととは何か?を提案してみたいと思います。

ガチガチの『型』の中にいた自分

アートセラピーを学ぶためにアメリカに来たわたしは、とにかく学校環境に慣れることに苦戦しました。

もちろんその戸惑いは文化の違いから来るものも多かったものの、クラスで課されるアートセラピー課題にとにかく馴染めなかったのです。

構図や描き方の専門トレーニングを受けたバックグラウンドがあることが裏目に出て、時間を掛けて、見た目を気にし、細心の注意を払いながら綺麗に丁寧に制作することに慣れていた自分。そんな、わたしは、クラスで課される自分の内面や気持ちを表現するための突発的なアート制作にどうやって取り組めば良いのか、それが全く出来なかったのです。

クラスメートたちはそれを無理なくこなしており、自分と周囲の、表現するアートやその取り組み方の根本的な違いに、正直度肝を抜かれたのでした。そして、謙遜の無い自信のある説明の仕方や褒め言葉が一般的なアメリカ的コミュニケーションのやりとりも加わって。

その『馴染めない感覚』は、正確には『引いてしまった』に近い感覚かも知れません。

「自分には彼らのような表現は出来ない」

何かがストッパーのようになって、自分の表現を『型』からはみ出させないように機能しているのを感じていたのでした。

本を壊せなかった、アルタードブックの課題

ある日、アルタードブック(Altered Book)と呼ばれるアートセラピー課題をすることになりました。

ナラティブアプローチにヒントを得たこの課題。自分の好きな本を一つ選び、その本を既存の本の形から壊して、自分流の形・姿に再構築する、というテーマなのですが‥。

この課題では、一人一冊、本を材料として使わなくてはならなかったのですが、わたしは、本を壊すことはもちろん、本に切り込みを入れることも、のりで何かを貼り付けることも、出来なかったのです。自分の気持ちの中で、本を『壊す』ことにとてつもない拒否感があったのです。

課題を見せ合う日に、クラスメートたちが様々な造形物に変化した本を持ってくる中、わたし一人だけ、そのまま原型を留めた本をポツン。

何が自分をそうさせるんだろう、なぜクラスメート達のように自由に好き勝手に思いっきり表現することが出来ないのだろうか‥。この時、自分の気持ちに存在する、何かを堰き止めるような『型』が、強靭に心の中に掘り込まれているように存在していること、そして『型』をはみ出すことへの恐怖心があることを強く意識したのでした。

『型』にはまろうと苦戦していた昔の自分

日本にいた頃のわたしは、どこにも居場所がないような、社会に馴染めていないような違和感を感じながら生活していました。

中学時代に経験した病気と、それがきっかけで学校教育と大人に不信感を持ったこと。そこから色々な状況を経て、高校には行かなかったこと。それを他人からジャッジされるような恥の感覚をずっと引きずっていたこと。そして、周囲と比較し大きな劣等感を感じていたこと。

10代の頃のわたしは、インセキュリティ(自分の自信の無い部分がたくさん)の塊でした。

社会のシステムが自分のように社会が敷くレールから外れた人を受け入れてくれる土壌が少なかった。そんな思いが常々あったため、時には攻撃的に、でも常に人の目をものすごく気にして馴染もうと苦戦していた、とても生きづらい生き方をしていたように思います。

絵を描くことが、当時の辛さからの逃げ道でもあり唯一の取り柄だとも感じ、そしてレールに再び乗れるかもしれない唯一のチャンスだと、美大を目指しました。しかし、大学に入ることに必死になるあまり、大学入試で求められる絵の描き方、求められるデザイン‥と、本来の自分の表現したいものではなく、社会・他人が求める表現を追い求めるようになっていたのでしょう。

アルタードブックという課題で本が壊せなかったのは、社会や他人が求める『型』にガチガチに固められ身動きの取れない自分を象徴していたのかもしれません。



『型』を壊せなくしているのは何か?

ずっと型を破れないまま学生時代を過ごした自分が、クライアントさんを実際に受け持ってみてアート制作を手伝ううちに、気づいたことがありました。

世間の常識があまり通用しない小さな子供や、認知症の患者さんが、とても楽しそうにアート制作をする様子、そこから会話が生まれ、喜びが生まれ、共感が起きる。

純粋に創作が与えてくれる不思議な力がそこにはあったのでした。

創作が楽しいこと。目の前の画材を使って自分独自に表現を作っていくこと。そこに、正しいやり方は存在しないし、ハプニングも起きる。だからこそ、ルールを決めることの無意味さ。

何を描いているのか一見分からない絵からも、本人の口からさまざまなストーリーが語られ、大きな意味を持つ。

そのストーリーを一つ一つ聞いているうちに、自分の中で、大きな変化が生まれたのを感じたのでした。


『型』からはみ出る恐怖とは、なんなのか。何をわたしはこんなに恐れていたのだろうか。

彼らにあってわたしには無かったもの。それは、どんな出来上がりであっても自分の創作を肯定してくれる環境だったのではないか。

『型』から抜け出すには、抜け出した自分を守ってくれる土壌が必要

創作やアートなどの表現活動が人の癒しや自己肯定に繋がること。そして、それを実現するための土壌を提供すること。それが今、わたしがアートセラピストとして活動する上で心掛けている大きな信念です。

自分の思いのままを表現するって、簡単そうで実はとても難しいことなんですよね。自分のありのままを誰かに見せるという行為は、ヴァルネラブル(自分の一番弱い、柔らかいところ)を曝け出すとても勇気のいる行為なのだと思います。その柔らかいところを突かれるのはとてつもなく怖い。だからこそ、安心出来ない場所では、ガチガチの鎧で覆い隠し完全防御するしかない。わたしが『型』から抜け出せなかったのは、その鎧を外して良い場所がどこにあるのか、それが何なのか、何が何だか分からないところを彷徨っていたからなのだと思います。

もしかしたら、自分をさらけ出せない状態が続く、と感じている人の背景には、自分の弱さをそのまま受け止めてくれる土壌が無い場合もあるのかもしれません。そしてそれに無意識のうちに気付いている自分がどこかにいる。

その勇気のある行為を真摯に受け止め、ありのままの自分を理解してくれる土壌は存在しているのか。自分の弱さを理解し受け入れてくれる土壌とはなんだろうか。

それを模索し、自分にとって安心できる場所や環境を作っていくこと。そこに、『型』を壊すためのヒントが隠されているかもしれません。

アートセラピストのヤスでした。

参考:


表現アートセラピー:創造性に開かれるプロセス

ナタリー・ロジャーズ著


パーソンセンタードアプローチと傾聴の生みの親カール・ロジャーズの娘で表現アーツセラピストのナタリー・ロジャーズによる、パーソン・センタード表現アーツセラピーを紹介した本。表現アーツセラピーでは、クリエイティビティの力が人間の心にどのような影響を与えているのか、アートだけではなく、ダンスや音楽、演技などさまざまな表現媒体を通じて学んでいきます。出来上がりの作品ではなく、制作途中のプロセスを大切にする彼女のアプローチは、自分らしく生きるためのきっかけを見つけてくれるセラピーと言っても過言ではないでしょう。ただ、過去のわたしのように、現在『型』から抜け出せないで葛藤している人にとっては、少し圧倒される内容かもしれません。『型』から抜け出せた時に、その延長線上にあるものとして是非読んで欲しい本です。



Art Therapy and the Neuroscience of Relationships, Creativity, and Resiliency: Skills and Practices

Noah Hass-Cohen著


『型』から抜け出せないけれど、アートセラピーに興味のある方にはこちらの本がオススメです。アートセラピーがどう科学的根拠を持つのかを脳科学の分野から説明している超論理的な専門書。愛着形成やトラウマ治療など、昨今の脳科学をベースにした研究とアート制作が人間にもたらす効果を重ね合わせて説明している良書です。上記の表現アートセラピーの裏付け資料としてもとても参考になります。



本当の勇気は「弱さ」を認めること

ブレネー・ブラウン著


『恥』の研究第一人者、TEDトークでもお馴染みのブレネー・ブラウン博士による本。この記事でも触れたヴァルネラビリティ(自分の一番弱い、柔らかいところ)について、自身のこれとどう向き合っていけば良いのか、ブラウン博士がさまざまな研究や知見を経てたどり着いた答えが書いてある、とにかくパワフルで元気が湧いてくる本です。ちょっと今しんどい、と感じている人にぜひ読んでもらいたいです。



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