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心理セラピストのSV(スーパービジョン)の必要性を考えてみた

  • 執筆者の写真: ヤス@BUNKAIWA
    ヤス@BUNKAIWA
  • 2022年2月25日
  • 読了時間: 6分

更新日:9月6日


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SV・スーパービジョンとは、心理支援職に携わる者が、先輩セラピストから心理療法に必要な技術や知識、支援職に携わる心得を学ぶ教習のことを指します。

アメリカの公認心理セラピスト資格では、大学院卒業後、資格取得の条件として最低でも1年半のスーパービジョン期間を終了することが求められています(大学院修了までにも約1年の研修期間が必要です)。研修期間中は、毎週1時間の個人スーパービジョンまたは2時間以上のグループスーパービジョンを受ける必要があり、クライアントとの対面セッション数に応じて必要時間数が変わります。

一方、日本の心理士資格では、スーパービジョンを伴う1年以上の研修期間は必ずしも資格取得の条件ではなく、受講は個人の選択に委ねられる場合があります。つまり、スーパービジョンを受けなくても資格を取得できるケースが存在するのです。

この現状は、日本のメンタルヘルスにおける大きな課題の一つだと感じます。この記事では、心理セラピストへのスーパービジョンの必要性と、日本の心理資格システムに対する批判的視点について、自分の意見をまとめます。なお、心理支援職向けに専門用語を用いる部分がありますので、ご了承ください。


SV・スーパービジョンとは何か?

スーパービジョン(以下SV)は約150年前、ソーシャルワーク分野でボランティアをサポートする目的で始まりました。それ以前にも教会団体などで類似の支援システムが存在していた記録があります。当初は運営上のタスク整理が目的でしたが、ボランティアの離職率が高かったことから、教育的・サポート的要素を拡充し、精神的ケアの役割も担う現在の形になりました。


アメリカにおける心理セラピストのスーパービジョンには、主に以下の3つの目的があります:


  1. 管理・事務責任的要素任務や役割、事務的作業への理解を深める

  2. 教育的要素臨床心理の技術やアプローチの方法を学び、経験値を上げる

  3. サポート的要素自己管理能力を育み、心理療法を行う上での安定を図る

これらにより、セラピスト全体の責任能力や認識が統一されるだけでなく、スキル向上や職場での働きやすさにも貢献します。


SVが心理セラピスト養成の絶対条件になっていないことの何が問題なのか?

心理療法は、一人ひとりのクライアントの事情・症状・体質・傾向が異なる上、セラピスト自身や環境の影響も加わるため、マニュアル的対応が困難です。そのため、新人のうちに最低でも1年間のスーパービジョンを受けることが重要だと考えます。

SVを受けない場合のデメリットには、以下のようなものがあります。


客観的に的確な判断を与えてくれる存在が足りなくなる


SVは、具体的な理論や技術を手取り足取り教えるだけでなく、自分の盲点やバイアス、逆転移の状況などを整理しながら、セラピー中に起きたことを客観的に理解するためのサポートをします。


盲点やバイアスに気づかず経験を積むと、独りよがりになったり、無理をしてセラピーを行ったりする可能性が高まります。


また、グループスーパービジョンでは他のセラピストのケースから学ぶこともでき、自分に合うアプローチやクライアント層の理解を深めることができるため、貴重な訓練経験となります。


仕事におけるバウンダリーを学びにくい


支援職には「人のためになりたい」と自分より他人を優先する傾向を持つ人も多くいます。しかし、この自己犠牲の精神は心理支援の現場では危険です。


自分の働きすぎや責任範囲、最低限のケアの基準などは、先輩から具体的に学ぶことでしか理解できないこともあります。基準があいまいだと、自分の仕事に自信が持てず、無理をしてバーンアウトしたり、過剰に勉強や研修にのめり込んだりする可能性もあります。



不安を受け止めてくれる受け皿が無い


私自身、SVなしでセラピスト経験を積むことはほぼ不可能だったと感じています。他人の人生に関わることには大きな不安や恐怖が伴い、何かあったときにどうすればよいか慢性的な不足感を抱えながら一人で学ぶのは非常に困難です。


さらに、児童虐待など通報義務のあるケースでは、判断がグレーゾーンになることも多く、先輩に順を追って相談できる環境があるかどうかで、心理士のバーンアウト率やクライアントへのケアの質にも大きな影響があります。



クライアントケアを補償する土台が無くなる


アメリカや欧米諸国では、SVは研修生に必修とされており、クライアント保護の観点からも重要です。研修生の実務への責任は、スーパーバイザーの資格に紐付けられるため、SVがあることで先輩が遠隔的にでも介入でき、新米セラピストもクライアントも安心してセッションを行える土台が作られます。


心理セラピストの不安を受け止めるSVは、この職業にとって不可欠です。飛行機の緊急時の案内「隣の人に酸素マスクをつける前にまず自分に」を心のケアに置き換えると、SVの重要性がよくわかります。心理セラピスト自身の心のケアが整うことが、結果としてクライアントへの支えにもつながるのです。



日本の心理資格の設計者への批判

心理セラピストの育成になぜSVが必要なのかを書いて改めて感じたのは、SVが教育・訓練に組み込まれていないことによって、彼らへのサポート不足やその二次的影響が非常に大きいということです。


SVがオプションである限り、心理士育成のためのSVを業界全体のシステムとして確立することは難しく、心理セラピストを目指す個人に一方的な負担や責任がかかる、とても投げやりで無責任な育成システムになってしまいます。そして、その先にいる利用者やクライアントのことは十分に考えられているのか、疑問が残ります。


心理資格団体や教育現場では、なぜSVの必要性を理解し育成プログラムに組み込もうとしないのか、そもそも、なぜ日本の心理業界のベテラン達はSVなしのシステムを良しとしたのか。それが私には非常に疑問です。今の育成システムは、真摯に仕事に取り組みたい心理士を困惑させ、疲弊させ、自己責任の負荷を押し付けるだけでなく、心理サービスの利用者に対しても一定の質や安心を保障することを難しくしています。



アメリカ・カリフォルニア州の研修生事情

カリフォルニア州では、研修生を雇うこと=SVが必要という共通認識があり、研修生はSVを受けやすい体制が整っています。一方で、SV期間中は報酬が低く、良質なスーパービジョンを受けるために研修費を自己負担するケースもあります。これは低料金のカウンセリング提供につながる側面もありますが、心理士の労働環境の課題ともなっています。資格取得後には独立や就職の安定が比較的保障される点も特徴です。


日本の心理職は、資格による補償や支援体制が十分でないため、バーンアウトや不安を抱えやすい環境になっていると感じます。



最後に

この記事では、アメリカと日本の心理資格制度の違いを例に、スーパービジョン(SV)が心理セラピストの育成にとても大切である理由をまとめました。


心理職は、人の心に関わる大切な仕事だからこそ、安心して学べる環境や、困ったときに相談できる相手が必要です。SVは、まさにその「支え」となる仕組みです。


日本でも、心理士が安心して働けて、クライアントの方々も安全に相談できる環境が少しずつ広がっていけばいいな、と私は考えています。今回の記事が、そんな制度改善や理解のきっかけになれば嬉しいです。



心理セラピスト・吉澤やすの

参考:

Awais. Y.J.,& Bluesy. D. (2020). Foundations of art therapy supervision: creating common ground for supervised and supervisors. Routledge. New York: NY.

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