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アートセラピーは癒し?アート制作が心身にもたらす癒しの効果とは



アートセラピーというと『癒し』の効果を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?医療現場でも使われることの多いアートセラピー、心の辛さだけではなく、身体的な痛みや苦痛を和らげることにも効果があることが知られています。


でも、直接患部を治療しているわけではないのに何故アートに癒し効果があるのだろうか?


そこでこの記事では、アートが身体にもたらす癒しについて、その関係性を具体的に解説してみたいと思います。


医療で使われるアートセラピー

アートセラピーの発展には、アートセラピーが医療現場で積極的に取り入れられてきた背景が挙げられます。


イギリスのアートセラピー創始者であるエイドリアン・ヒル (Adrian Hill) は、自身が結核に罹った際にアート制作のパワーを実感し、それを『アートセラピー』と名付けた文献を残しました。彼はそれ以降、様々な病や障害に苦しむ患者さんの治療のためにアートを取り入れるようになります。アート制作の効果は認められ、現在でもアートセラピーは、薬や医療行為以外の治療のオプションを求める方の需要に合わせ医療の現場で活用されています。


一般的に、身体的な病を抱える患者さんに対して、アートセラピーには以下のような効果があるとされています:

  • アート制作によって、病に対する苦痛や不安、恐怖などを超越した喜びの感覚が呼び起こされ、心強いパワーを感じることが出来る。

  • アート制作に没頭している間、一時的にでも痛みや苦しみから気を紛らわし、平穏を取り戻すことが出来る。

  • アート制作に関する物事(画材や表現するもの)を自身がすべて決めながら進めることにより、病により失いつつあった自主性やコントロール権を取り返すことが出来る。


アートとフローの関係

心理学者のミハウ・チクセントミハウ博士によると、人間は、何かの活動中に『フロー』という精神状態に入ることによって幸福感を得ることが出来ると話しています。


フローとは、例えば、テニスプレーヤーがボールの動向に全神経を注ぎ相手に球を打ち返すような、快感を伴う感覚に近く、自身が今その瞬間に活動中の内容に対して全神経を集中して無心に取り組むような精神状態を指します。博士によると、フローを感じることによって人はより強く喜びを感じたり人生の意味を見出すことが出来、それは人生を豊かにする材料にもなると話しています。


フローを感じるために必要な要素として、博士は以下の8つの項目を挙げています:

  1. その活動において何をすべきかはっきり分かっている

  2. 何の活動をしているのか、出来上がりやゴールに至るまでの進捗が正確に理解できている

  3. 活動内容が自身の能力にマッチしている

  4. 集中力を持ち、内面と身体が一体感を感じることが出来る

  5. その活動をすることによって現実逃避ができている

  6. 自分が主導権を握っていると感じられる

  7. 人の目を気にしなくなり、自身のありのままの姿や弱い部分も晒け出せる

  8. 時間の感覚がなくなる

この8つの項目、実はアート制作をしている時にアーティストが感じることのできる感覚に該当するものが多いのです。そのため、アート制作に取り組む人はフローを体験出来る条件が整っている、つまり、フローを体験しながらのアート制作によって大きな幸福感を得ることが出来る、と説明することが可能です。


そしてフローは、ストレスホルモンのコルチゾール値を下げる効果もあるため、精神的な面だけでなく、身体的にも好効果があるのです。


アートをコミュニケーションの手段に

アート制作がもたらす精神的効果には上記のようなものがありますが、アート作品に表現される『イメージ』自体が、言葉では言い表せないような身体の不調や苦痛を体現するための手段となることも、アートが癒しの効果を持つ大きな理由になっています。


分析心理学(Depth Psychology)で有名なユングは、夢の中でイメージした内容が身体的不調を予知する要素になる、という仮説を立てており、彼が不調を訴えていた人の病名を夢診断から当てたこともあるという話が存在します。この件に関しては実証がされている訳ではないので一つの逸話として紹介していますが、彼のようにアートと心理学を結びつけていなくとも、歴史的に有名なアーティストの中には、身体・精神的苦痛を大きな原動力にアート活動を展開したアーティストが数多く存在し、そこからもアート表現と身体、心(マインド)のダイレクトな関係性を学ぶことが出来ます。


例えば、メキシコの有名なアーティスト、フリーダ・カーロは、幼少期に罹ったポリオや大きな交通事故の後遺症の影響で一生涯、全身に酷い痛みを抱え苦しみながら生活をしていたそうです。彼女は、自身の肖像画を描くことを通じ、身体に大きな痛みを抱えている自分の葛藤や自身の姿を表現する作品を数多く残しています。


また、遊び心のある画風で知られるパウル・クレーは、人生の後半を皮膚や筋肉が強張ってしまう難病の強皮症に苦しめられました。彼は自分が絵を描く理由をこう説明しています。


"Never have I drawn so much nor so intensely... I create in order not to cry."

(こんなに絵を描くことも、こんなに強烈に描くことも、本当だったらしないだろう…自分は泣かないために創り続けているのだ。)


アートという媒体を通じることで、言葉では説明出来ないような葛藤(痛みだったり不安だったり)を第三者に向けて発信することも、葛藤と向き合うための気持ちの整理(カタルシス)、自身が持つ内面の強さを再実感できる(昇華)など、信念的で感情的なサポートを強く感じることが出来るのです。


おわりに

わたしがアートセラピストを目指したのも実は、自身が中学生の頃に患った病気がきっかけでした。長期間、学校に通えず、痛みや孤独と戦っていた時期にアートに出会い、没頭して時を忘れてひたすら描いて、出来上がった作品を周囲に喜んでもらえた時の肯定感と言ったら‥それがとてつもなく大きな心の支えだったのを今でも強く覚えています。


わたしの場合、表現の対象は美術でしたが、心の支えとなるような表現芸術が、音楽である人も、物語を書くことである人もいるでしょう。人間の生活を豊かで楽しいものにしてくれる表現芸術は、自分が一番辛い時にも、明るく照らしてくれるかけがえのない存在になります。


ここでは書きつくせなかったアートセラピーの魅力、今後もどんどん伝えていきたいと思います。長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。



アートセラピストのヤスでした。

アートセラピー専用Twitterアカウント→@ArtTherapistYasで最新記事の情報をチェック。

参照:

フリーダ・カーロの人生や作品を紹介しているサイトhttps://www.fridakahlo.org


フロー体験:喜びの現象学

ミハウ・チクセントミハウ


本記事の『フロー』を紹介しているチクセントミハウ博士の本。日々何気なく取り組んでいる自分の仕事や家事の行程を少し視点を変えて取り組んでみることで、フローを経験し人生がより豊かに幸せになることが出来ると提案する良書。博士がなぜフローに注目したのか、そのきっかけはアーティストだったそうです。興味のある方はぜひ。


Csikszentmihaly, M. (2015). Flow. Audible. Audiobook.(英語版)


Malchiodi, C.A. (2007). The Art Therapy Sourcebook. 2nd. McGraw-Hall. New York: NY.