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  • 執筆者の写真ヤス@BUNKAIWA

アートセラピーを無闇に扱うことへの危険性と、専門トレーニングが必要な理由を解説



アメリカでは、どの州であっても、心理療法を実践する州公認の心理士になるには、特定の大学院を卒業後、心理療法士になるための専門研修を一年以上の期間受けることになります。

その研修期間には、SV(スーパービジョン)と呼ばれる、先輩心理士に専属し個人・少人数での指導を毎週欠かさず受けていく心理士育成教育を受ける必要があります。そこで一定期間の研修を終えることが出来た者にのみ、資格試験の権利が与えられ、そこから試験に合格して初めて心理士となることができます。


欧米において心理療法・セラピーの資格が厳しく設定されているのには、それだけ精神医療の扱いには重い責任があるからです。

同じように、アートセラピーにも同じ基準の責任が求められています。そして、アメリカでアートセラピストになるには、州公認心理資格のように、アートセラピストによるSVを含む研修期間が課されています。


しかし、日本では、アートセラピーがカルチャースクールの講習で取れるような比較的取得が簡単な資格として扱われている印象を受けます。


そこで、この記事では、アートセラピー資格をどのような位置付けにする必要があるのか、心理療法のバックグラウンドを持たない者によるアートセラピーを扱うことの危険性やリスクについてを説明したいと思います。


アートセラピーの位置付け

日本のカルチャースクールなどの講座で取得することができるアートセラピー資格は、どちらかというと、アート制作が癒しにつながることに着目した、リラクゼーションの意味合いでの用い方に限定されているように思います。

これは、例えば、ヨガやメディテーションのクラスの講師と比較的近い位置付けにあるのではないかと感じます。

しかしながら、アート制作は簡単だから…。アート制作自体が癒しだから‥。というリラクゼーションを目的としたアート制作は、本来、心理療法にアートを用いるセラピーであるアートセラピーの特徴と比べると、とても限定的な効果しか持ちません。


実際のアートセラピーのセッションでは、クライアントの心の奥に心理療法と同じ感覚でアプローチをしていきます。ただ、使う媒体が言葉だけではなく、体感を使ったアート制作であったり作品を用いるという差異があるだけです。


そのため、アートを使ったリラクゼーション目的のことをしようとしているのか、それとも、クライアントの心理療法を目指すセラピーとしてのアートセラピーなのか、アートセラピーを紹介しようとする人は、その差を明確に差別化した上で、クライアントにサービスを提供する必要があると感じます。



心理療法のバックグラウンドを持たない者によるアートセラピーを扱うことの危険性について

アートセラピーにおけるアート制作では、クライアントの使う画材がどのような感覚を本人に与えるのか…。どのような視覚情報がクライアントの目に入っていくのか…。クライアントの心の状況次第では、クライアントの目の前にある視覚情報がさまざまな気持ちを引き出してしまう可能性を秘めている危険を無視してはいけません。

いくらアート制作が一見、楽しそうと見えていても、そもそもアートセラピーが着目しているのは、脳に刻まれた記憶の中には、言葉だけではない、視覚・体感情報があるはず、そしてそこにアクセスするための手段としてのアートの使用があるのです。

そのため、言葉で話しているよりも心の奥深くにある言い表し難い大きな気持ちやトラウマも、実は会話だけのセラピーよりも蘇りやすいのです。

そのため、アートセラピーを提供する者は、クライアントさんがこれらの状況が起きた時に、しっかり対応することの出来る、心理療法の専門知識を持っている者しか使うべきではない、というのがわたしの意見です。


アートセラピーが適切に実践されなかったことから起きた悲劇

東日本大震災の際、被災地に出向いて被災者の子どもたちに『アートセラピー』を提供したところ、かえって心の傷が深くなった、というニュースが流れました。これは、アートセラピーを理解していない者によって善意で行われたアート制作活動が被災者のトラウマを引き起こし、そして、その現場が被災者のトラウマ反応を十分にケアできる技量の無い環境であったことから生まれてしまった辛い出来事です。


これは、例えば、車の操縦を知らない人が、見よう見まねで運転した結果、民家に乗り込んで、その結果、後始末が出来ないまま混乱を引き起こしてしまったような感覚に近く、とても無謀で無責任な行為だと思いました。これは10年以上前の出来事ですが、残念ながら、同じような話は今でも聞きますし、このような出来事の繰り返しや、上述したリラクゼーションなど限定的な効果しか得られない体験から、「アートセラピーは効果が無い」といった誤解もよく耳にします。


このような出来事を教訓に、アートセラピーを実践する上でのリスクや本当の狙いやゴールを実践者(提供者)は把握している必要があると感じています。何よりも、人の心を扱う仕事であることを理解した上で、その覚悟がある人だけに関わってほしいと感じます。


尚、ここで説明しているのは、アートセラピーがトラウマ反応を引き起こす可能性があるから危険だ、というのでは決してなく、トラウマ治療を出来ない者が無闇にクライアントの心の内を引き出していくことに対して危惧するべきであることを主張しているのだと、強調させていただきます。


アートセラピーは心理療法の専門職の一つである

アートは誰もが子どもの頃から触れ合ってきたことのある、誰にとっても扱うことの出来る手軽さがあります。だからこそ、自分の偏見に基づいて取り扱ってしまいやすいのかもしれませんし、心理療法の中でも気軽に出来るような気分になりやすい存在なのだと思います。


しかし実際は、歴とした心理療法の一つであり、わたし自身、専門の勉強に加えて、SVを受けて初めて、自分自身が持っていたアートセラピーへのイメージ偏見や、アートの人の心に与える威力に、変化の現象を身近で見ながら気づいていくことがだんだんと理解出来るようになりました。これには、心理療法をしっかり学び、画材を実際に自分が触れ、その上で、画材の特性や体感・視覚情報の人間の脳に与える影響をセッションを客観的に振り返りながら理解する必要のある、少し特殊な専門性が必要です。

アートセラピーとは何か?何をすることが具体的に心理療法(セラピー)となっているのか?クライアントにどのような効果を与えているのか?そのための介入法とは?そして、取り扱いの危険性とは?クライアントの何に気づく必要があるのか?など…。

アートをセラピーとして扱う人には、心理療法を学ぶのと同じように、アートセラピーの歴史や基本的な心理療法の知識を学んだ上で、専門のSVを受けてほしい、その上でクライアントを見てほしい、そう感じます。


手軽に実践がしやすそうなイメージや偏見を持たれやすいアートセラピーだからこそ、実は無闇に実践することへのリスクをみなさんに知っておいて欲しいと強く思いました。この記事が、アートセラピーの専門性や理解が広まるきっかけの一つになれたら幸いです。



アートセラピストの吉澤やすのでした。

 

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