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絵を見ただけじゃ心は読めない。絵画を通した性格診断や心理分析にまつわる誤解と実際を解説【アートセラピーアセスメント】


みなさんは、アートセラピーに関してどのようなイメージを持っていますか?


アートセラピストとしてSNSで情報発信を始めるようになり、気づいたことがあります。それは、世間のアートセラピーについての認識が、実際のアートセラピーの活動内容とは大分異なって解釈されているということ。


例えば、「絵を見たら心が分かるのか?」は、アートセラピストと名乗ると一番に聞かれる質問の一つです。


犯罪映画やドラマなどで心を閉ざした子供の絵を分析する描写や、ささっと描いた絵から恋愛観や深層心理を当てる心理テストの流行により、アートセラピーのイメージが、それらメディアによって作り出されたイメージに近い形で受け取られているような印象を感じます。


そこでこの記事では、様々あるアートセラピーへの見解の中でも、特に誤解されがちだと思われる『絵を見て人の心理を読み解く』ことに対する誤解を実際の心理アセスメントの使われ方と比較しながら詳しく紹介したいと思います。


『絵を見て人の心を読む』とは?

そもそも、アートセラピーという学問は、フロイトの精神分析(人の無意識に注目した心理理論)から大きな影響を受けて発展していきました。というのも、精神疾患を抱える患者さんの治療にあたっていた精神科医がクライアントの絵を見て、絵が制作者の心を反映しているのではないか、と注目をしたところから始まっていきます。

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絵に描かれたイメージを元に制作者の心理分析や性格診断をする、という考えはこの流れから来ており、投影テクニック(プロジェクティブテクニック・projective technique)と呼ばれています。ちなみに『投影』とは、自身の心で考えていることや無意識に存在する意識が、目の前の何かに鏡のように映し出されているような状況を表す心理用語です。


『絵を見て診断する』ことの是非

投影テクニックを使った心理分析や性格診断テストの中には、この記事後半で紹介するアートセラピーアセスメントや、既存の画像から個人がイメージや意味を連想するロールシャッハテストのように実用されているものもあります。


一方で、お題や縛りも無く自由に描かせた絵を第三者が一方的に診断するタイプのものに関しては、その信憑性や正確さには疑問の声が多く上がっています。


なぜなら、一個人が一枚の絵を描きあげるのには少なくとも以下のような多岐に渡る要素:

  • アーティスティックな技術・描画能力

  • 知的・学習能力

  • 認知能力

  • 身体能力や身体自由度

  • 文化背景

  • 年齢‥etc.

これらが複雑に関わっているからであり、全ての要素を考慮した上で統一化した診断基準や指針を作ることはとても難しいからです。


例えば、ある人がリンゴの絵を描いたとしても、描いた本人の描画能力や認知能力が低ければ、丸いはずのリンゴが長方形に描かれる場合もあるかもしれない。また、極端な話、描いた本人は朝ごはんで食べたリンゴを描いただけだとしても、絵を見た第三者の中には旧約聖書の禁断の果実を咄嗟に連想する人もいるかもしれない。


このように、一つのイメージや表現に対して、誰がどのような認識や意味合いを思い浮かべるかは無限の可能性があるため推測することが出来ません。それはつまり、辞書のように字引をして各イメージにまつわる意味を第三者が確実に探し出すことはほぼ不可能に近いということ。絵だけを見て、他人がその絵に描かれた制作者の意図を解釈し、作者の心理状態や性格を判断することは偏見に満ちている可能性がとても高いのです。


そのため、『絵を見て人の心を読む(診断する)』ということ自体に関して、確実性も妥当性も証明されていないという見方が現在の一般認識です。


アートセラピーアセスメントとは?

ただ単に『絵を見る』ことによってクライアントの人となりや心理状況を理解するのは確実性が無いとしても、アート制作を通じて、性格や心理状態に影響を与える要因となりそうなクライアント情報を収集することは可能です。


現在、アートセラピーで利用されるアートセラピーアセスメント(アートを利用した心理分析や診断)は、個人のこのような側面の情報収集を目的に使われることが多いです。

  • 知的発達度

  • 認知能力

  • 身体能力

  • 人間関係・対人距離

  • 自分像(セルフコンセプト)

  • ストレスになっているもの、等


例えば、Human Figure Drawing Test(HFD) というアートセラピーアセスメントでは、人の姿をなるべく実物に近い形で絵に描いてもらうことで、作者の知的発達度や認知能力、また身体能力の傾向を描画線や各ボディパーツの配置・バランスなどから測ることが出来ます。


一方で、1972年に子供を対象にデザインされたKinetic Family Drawings (KFD)では、「自分の家族全員が何かをしている様子」をお題に絵を描いてもらいます。このアセスメントでは、その絵で描かれる家族像や本人が説明する絵の内容を通じ、その子が家族の他のメンバーとどのような関係性を持っているのか、また家庭内において自分像(セルフコンセプト)をどう捉えているのか等を洞察的に探ることが出来ます。


ここでは紹介しきれないのですが、上記で挙げた2つのアセスメントの他にも、様々なお題やテーマを元にしたアートセラピーアセスメントは多数存在しており、各内容により、収集する情報や目的も異なります。


しかしながら、どのアセスメントにおいてもお題の無いフリードローイングをいきなり描かせて内容を第三者が判断するというものは存在しません。そして、各アートセラピーアセスメント、完成後の作品だけでなくクライアントのアートに取り組む様子や画材の使い方、作品に対する説明等、様々な角度から集積したデータを元に分析する、というやり方が現在の一般的に取り入れられているアートセラピーアセスメント方法です。


さいごに

上記で説明したアートセラピーアセスメントのように『絵を描かせる』スタイルの診断・分析方法は存在します。しかし、多くの人がアートセラピストに対して抱く『クライアントが描いた絵を見て心が分かる(その人がどういう人なのかわかる)』という誤解は、既存の画像からイメージや意味を連想するロールシャッハテストのような投影テクニックとその他アートセラピーアセスメントが混同されて認識されていることが原因のように思います。


クライアントが描く絵の要素(線の質や色味など)やアート制作時の動作の傾向から、クライアントの抱えている精神疾患が読み取れる場合や、クライアントの人間性が感じ取れる場合はあります。


しかし、絵からのみだけではなく、絵画制作の工程を観察することで得る情報やクライアントの直接の説明を総合的に情報集積することで、深く確実な理解が出来るようになります。そこには、セラピスト側が、独自の偏見を極力無くす努力と、目の前に何が起きているのか、クライアントの様々な側面に興味を持つこと、そのための観察眼を養うことが強く求められています。


本当はもっと奥が深いアートセラピー、これからも様々な情報を発信していきたいと思います。


長くなりましたがお読みいただきありがとうございます。



アートセラピストのヤスでした。


アートセラピー情報を紹介するnoteを始めました。本記事を始め、様々なアートセラピー介入方法を紹介予定です。興味のある方は是非フォローをしていただけたら嬉しいです。




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参照:

Brooke, S. L. (1996). A therapist’s guide to art therapy assessments: tools of the trade/ by Stephanie L. Brooks; with a foreword by Harriet Wadeson. Charles C Thomas Publisher Ltd. Springfield: IL

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