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移住先のストレス緩和に自己肯定感(セルフアファーメーション)を取り入れて【異文化変容ストレス】



アメリカに引っ越してきたばかりの頃、人やサポートにとても恵まれていたにも関わらず、当時のわたしはとにかく精神的にしんどい思いをしていたのを覚えています。


その頃のわたしは、アメリカ社会に適応しようと常に現地の人を意識し彼らのように振る舞うことを目指していました。しかし、文化も言語も違う他国から来た移民が簡単にそうなれるわけはなく、周囲と比較しては落ち込んで、『日本人っぽい』周囲からちょっと浮いているような感覚や、日本にいた頃のような能力が発揮し切れない自分に苛立ちを感じ、ストレスを抱えながら生活。『自分らしさ』を散々無視していたことにやっと気がついたのは、住み始めて数年経った頃でした。


移住先の社会では、移民は今まで培ってきた自分像(セルフコンセプト)とは別の自分像を作ることを強いられます。そして、それは思ったように上手くはいかず、大きな不安や恐怖に襲われる場合もあるでしょう。移民になるとは生活基盤やサポートの薄い社会的弱者になるということ、そして不安や孤独を少しでも解消するために周囲に馴染もうと適応を焦る気持ちも強くなります。しかし本当に必要なのは、周囲に合わせる努力ではなく、自分自身の身に何が起きているのか、自分の内面に目を向ける機会なのです。


この記事では、移住先の社会や環境に自己評価を影響されやすい移民が簡単に出来るストレス対処法の一つとして、自分の内面の良さを引き出す手段である自己肯定感の心理介入方法とその利点についてを特集したいと思います。


自己肯定感『セルフ・アファーメーション』とは何か?

一時期の自己啓発書の流行から、最近よく耳にするようになった『自己肯定感』


セルフ・コンフィデンス(Self-Confidence)に近いニュアンスで本人のやる気やポジティブさを引き出すための言葉としてコーチングに使われることが多いですが、実は、アメリカでは、セルフ・アファーメーション(Self-Affirmation)と表現され、自身の内在する価値や強みに目を向けることを試みる心理介入方法の一つとして知られています。


セルフ・アファーメーションは、社会心理学のセルフ・アファーメーション理論から考えられたコンセプトで、社会生活の中で起こる避けられない脅威(ストレスや不安など)に対してどう対処していけば幸せに生きることが出来るのか、自分自身に対する見方を柔軟に変えながら自分の不足部分を良いところで補いながら維持していこう、というセルフ・システム(自己機能)に注目しています。


やり方は簡単。自分が得意とすることや好きなところ、自信のある部分、過去の功績への努力、自分の信念や大切とするもの等を紙に書き出すだけです。そして、何か大きなストレスを感じる出来事や不安を抱えるような状況に直面した時、それを思い出してみるのです。


ある研究によると、公共でのスピーチなど人がストレスを感じやすいイベントに直面した際に分泌されるコルチゾール(ストレスホルモン)が、イベント直前にセルフ・アファーメーション介入をした場合には分泌されなかった、という結果があるそうです。


セルフ・アファーメーションとは、自分という人間が本来どういう人なのか再確認させてくれる行為であり、それは、脅威となるような心的ストレスを大きく受け止め処理出来るようになるための心構えを準備する役割を与えてくれます。


セルフ・アファーメーションとステレオタイプ

学力の低い学生に毎朝セルフ・アファーメーションの練習をさせたアメリカの実験によると、白人系の生徒にはそこまで変化がなかったものの、アフリカン・アメリカン系またはラティーノ系の学生の学力に大きな改善が見られたそうです。


彼らに共通しているのは、アメリカの社会において人種・民族マイノリティに属すということ。そして、そのカテゴリ分けによって、学校活動に関するネガティブなステレオタイプを社会から与えられて生活をしている場合が多いということ。


差別や偏見、または社会的構造の不公平さから、ネガティブなステレオタイプで見られることの多いグループに属す人は、それがたとえ自分自身を指している言葉ではなかったとしても、そのようなネガティブな意見を自己価値観の一部に取り込んでしまう傾向が見受けられるそうです。

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そのような学生にとって、自分自身の価値とは何なのか、自分の内面や強みに向き合うことを促すセルフ・アファーメーションは、自己評価を再査定してくれるような効果があります。そして、学校や社会から与えられるタスクに積極的に好意的に取り組む力を与えてくれます。興味深いことに、セルフ・アファーメーション介入による効果は一度きりではなく、永続的な効果を持ち続けるという研究結果もあります。


『移民という存在』そして、セルフ・アファーメーションを使う理由

移民になるということは、社会的マイノリティになることを意味します。


誰も自分を知る者のいない環境で、一から全てを構築しなくてはならない。そのようなプレッシャーを抱えつつ、言語や文化の違いから100%の能力が発揮出来ない状態での生活は、予測が出来ない想定外を多く作り出すストレスフルな状況でもあります。


同時に、マイノリティであるということは、周囲からは『留学生』や『日本人』、『移民』、『言語が片言な人』、『現地に不慣れな人』といった、何かしらのカテゴリやステレオタイプで自分が見られやすくなる機会が圧倒的に増えます。そして、無意識のうちにそれらの役割を演じてしまう場合もあるのです。


そのためより一層、自分自身の持つ個性や強さ、性格、今までの功績や自信、自分の好きなこと等、揺るがない自己価値観を再確認することが大切です。そして、その再確認した自分の良さをバネに、異文化環境でぶち当たるストレスや困難に対処していくのです。


この循環は、"Circle of Adaptive Potential(適応可能性の環)"と呼ばれ、再構築したセルフシステム(自己機能)と社会システムを行き来する状態のことであり、これが、セルフ・アファーメーションの求めるゴールであります。


おわりに

上記に記したように、一定のグループに属す人を対象にした実験では大きな効果があるとされているセルフ・アファーメーション。移住先で周囲の環境や意見に自己評価を左右されやすい移民にとって、自分の内面に目を向け自身の良さを引き出すことは、大きなエンパワーメントであり、逆境力を身に付ける手段にもなります。


しかし、もともと前向き思考でオープンマインドの人や、同じ状況で何度も失敗を重ね自信を喪失している人にセルフ・アファーメーション介入を適用した場合、良くなるどころか逆効果となってしまう、という研究結果もあるそうです。


そのため、大きなストレスを抱えながらも、セルフ・アファーメーションが向かないと感じる方には、別の心理介入が望まれます。異文化生活は楽しいこともあるけれど、ストレスも感じやすいものでもあります。心の不調が疑われたら、些細なことでも心理の専門家に相談してください。何よりも、自分に優しく、正直になることが大切です。


長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。この記事が誰かのお役に立てたら幸いです。



クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。

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お薦め本:

「ネガティブな感情」の魔法

ブレネー・ブラウン著

英語タイトルは"The Gifts of Imperfection"(不完全さがもたらすギフト)恥や弱さなど、人が敢えて触れないよう向き合わないようにしがちな嫌な感情を専門に研究しているブラウン博士。彼女が提案する自分を好きになるための方法は、まず自分をありのまま受け入れることから始まります。ブラウン博士自身の体験談や率直な気持ちも一緒に綴られているこの本、とても読みやすいだけでなく、パワフルなメッセージがたくさん込められていて、読後は元気をもらえること間違いなしです。


Karamo

by Karamo Brown

わたしの大好きなQUEER EYEのFAB5の一人、カラモさんによる本人の自伝本。オプラ・ウィンフリーのような人になりたい、と目指し始めたリアリティショーのホストになるために経験した紆余曲折な人生は、彼に多くの葛藤と学びを与えました。自分の本当の姿、そしてそれを受け入れることの大切さを移民の子供であり性的マイノリティであり、社会的マイノリティである彼が話すストーリーには力がもらえます。




参照:

Cohen, G. L., & Sherman, D. (2014) A Lecture in Psychology: Self-Affirmation and Social Psychological Intervention→Video