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執筆者の写真ヤス@BUNKAIWA

『文化の違い』を過ごしやすくするために。移住者のための境界線・バウンダリーの手引き【異文化変容ストレス】



このブログでもたびたび紹介している他人と自分の間に存在する心の境界線・バウンダリー。

人間関係に関わる悩みのほとんどは、この境界線・バウンダリーに問題があることが原因であると言われています。

わたし自身、昔からこの境界線・バウンダリー引きがとても苦手で、現在でこそ少しはマシになったかな‥と思うものの、知らず知らずのうちに他人のペースに合わせすぎてしまい、後になってドッと疲れてしまう時もしばしば。

アメリカ生活を開始した時も、実はこの境界線・バウンダリーが原因で悩み事を抱えることも結構あったのですよね。

そこで、今回の記事では、見過ごされがちだけど実はとても大切な、異文化出身者が知っておくべき境界線・バウンダリーの引き方についてを話していきたいと思います。


境界線・バウンダリーとは何か?

アメリカの心理セラピストのネドラ・グローバー・タワーブ氏によると、バウンダリー・境界線とは、対人関係において相手との適切な期待値やニーズを設定してくれる存在であり、自分が安心して心地よいと感じられる人間関係を築くために必要不可欠な要素であると指摘しています。

それはまるで自分の家と相手の家の間にあるフェンスのようなもの。自分の心の敷地内に勝手に無闇に侵害されることも、相手の敷地に侵入してしまうことも妨げてくれるような、双方にとってちょうどいい距離感を作るための線引きの役割を果たしています。

線引きが明確に目の前にあることによって、ズカズカと自分の領域に踏み込まれ相手の都合の良いように利用されてしまうことも、逆に相手を振り回し嫌な思いをさせてしまうことも避けることが出来るようになります。

そして、その線引きを相手に見せるためには、はっきりとした意思表示と簡潔で透明性のあるコミュニケーションを持つことが大切になります。


文化の違い・言葉の違いが関わるときの境界線・バウンダリー引きの難しさ

しかし、もしこの自分の期待値やニーズを話し合う相手が、言語や育ってきたバックグラウンドが大幅に異なる異文化出身者であった場合、もしくは、自身が新参者として新たな生活拠点の常識や価値観に順応していかなければならない時だったらどうなるのか…。

どこまでが相手(新たな環境)に合わせれば良いのか、何がその土地では当たり前のことなのか‥。自分の考える『普通』と、相手の考える『普通』の前提が違う場合、どこまでが自分の意見を主張して良い範囲なのか。もしくは、言語が不確かなため、自分が間違って解釈している可能性も無きにしも非ず…と自分を無理に納得させ、相手の言動を都合よく解釈してしまうこともあるかもしれません。

このような状況下では、境界線・バウンダリーがあやふやになってしまう移民はとても多いのではないかと感じます。


「郷に入ったら郷に従え」の盲点

新しい文化環境に行ったらその文化や社会のルールに従うこと。

これはわたしが小さい頃から親に口を酸っぱく教えられてきた価値観でした。日本から海外(日本国内であっても見知らぬ土地)に移住された方の中には、この考え方を基準に様々なことを許容、そして我慢してきた方もいるのでは。

この考え方を強く念頭に持っていたわたしは、アメリカで出会う文化への抵抗感が比較的低く、食べ物も、紹介される生活スタイルも、楽しんで受け入れることが出来ていました。

しかしながら、なんでも紹介されるものをホイホイ受け入れることには盲点も‥。

移住したばかりの当初は、言葉も現地の人並には理解が出来ていないのもあり、知人の話す「アメリカではこれが当たり前なんだよ!」の言葉を鵜呑みに、「本当に良いの?」と思うようなこと、今考えるとアメリカでも非常識なことをしてしまう時もありました(恥ずかしくて言えません。笑)


「アメリカでは‥」

「日本では…」

「海外では…」

この言葉には、その発言をする人の価値観が含まれていることを忘れてはいけません。

しかしながら、それを理解出来ていなかった当時のわたしは、本当はやりたくなかったことも我慢しなきゃと思いながら、相手の非常識に合わせて過ごす場面がとても多かったのです。そして、それが原因で、人と関わるのが次第に嫌になりました。

当時のわたしは『文化の違い』を理由に、相手に大幅に譲歩するような境界線・バウンダリーを引いてしまい、自分を傷つけていたのです。



今までの自分の境界線・バウンダリーに改善点がある場合も

そんなこともあった一方で、今まで安心出来ていなかったことに初めて安心感を覚えられるような体験もありました。

アメリカ一年目の時、通ったカレッジでつきまといの被害を受けたのですが、その時の学校の対応がすごく徹底していたこと。わたしが不快に思ったことを受け止め、相手の生徒への対処を迅速に行なっていただきました。

正直、「こんなことで…大袈裟になって申し訳ない」と深い罪悪感を感じた自分もおり、しかし、学校の対応にとても安心したのでした。そして、徐々に、「少しでも不快を感じたらきちんと主張しても良いんだ」「不快だったんだから当然のことじゃない」と思えるようになりました。相手もアジア圏出身の留学生だったため勧告を受けて「こんなことで…」とびっくり憤慨していましたが、アメリカで生活していく上では、その人にとっても良い学習機会だったのだと思います。


(ちなみに、その人の文化圏では、かなりキツめに拒絶しないと好意があると受け取られる傾向があったようで、わたしの曖昧に濁したような断り方・関わり方にも問題があったようです。ここにも文化の違いが関わることによる境界線・バウンダリーの難しさを学びました。)

それはさておき、このような性的アプローチに関する個人の権利は、アメリカ(少なくともカリフォルニア)では徹底しています。この経験を通じて、わたしは逆に、日本で培った今までの自分の境界線・バウンダリーに見直す点があったことを強く実感したのでした。ジェンダー指数が圧倒的に低いのですから、他国と比較して見直す点があるのは当然のことですね。


自分にとって心地よいと感じられる境界線・バウンダリーとは?

上記に挙げたように、移住先や異文化出身者との関わりの中で『文化の違い』を強く意識するあまり自分の境界線・バウンダリーが守れない場合もあれば、新たな文化に触れることで自分の育ってきた文化・社会の価値観が、もしかしたら自分の権利を侵害している良くない境界線・バウンダリーを作り出していたと気づくこともあります。

そのため、移民は、以下の3つを考慮しながら、自分にとって本当に心地よいと感じられる境界線・バウンダリーを新たに再構築していく必要が出てきます。

  1. 自分の出身文化や社会を前提とした従来の自分が引いてきた境界線・バウンダリー

  2. 新たに移住する先の文化や社会背景を前提に考えたときに築いていきたい境界線・バウンダリー

  3. 文化や社会観問わず、自分が心地よくいるために最低限必要な境界線・バウンダリー、もしくは直感で感じる自分の限界点

この3つを分析していき何が自分にとって安心を与えてくれる境界線・バウンダリーなのかを振り返っていくこと。そして要らない部分・大切にしたい部分を取捨選択し、明確化していくこと。

滞在する場所や状況によって、服装などTPOが求められるもの等の境界線・バウンダリーは若干柔軟に変えていく必要があるのかもしれませんが、見知らぬ状況に直面した際に自分にとっての心地よい境界線・バウンダリーを随時振り返り尊重すること、そしてそれを守るために、相手に期待値やニーズをはっきり伝える技術を身につけていくこと。

これを繰り返し振り返っていくことで、文化の違いに左右されない自分軸を持った、本当に自分らしい楽しい生き方が実現するようになっていくのではないかと感じます。そして、それに伴い人間関係も楽になってくるかもしれません。


おわりに

異文化環境に出会った直後は自分の権利がどこまであるのか、その境目の分かりにくさに適切な境界線引きに苦戦してしまうこともあるでしょう。しかしながら、異なる価値観が交わり紹介される時だからこそ、自身にとって本当の意味で居心地の良いと感じる境界線を振り返り、改めていく絶好のチャンスともなります。


『文化の違い』を尊重することは大切でも、その国・文化圏出身者の中では良しとされているものが、自分にとっては居心地の悪いことであるとはっきりしていることに関しては、NOをいう権利は誰にでもあるのだと思います。


そして、相手に遠慮してNOを言わずに無理して相手に合わせて過ごすよりも、自分の気持ちを信じてしっかり自分の境界線に向き合い期待値やニーズを相手に伝えていくことで、本当の友達や自分を大切にしてくれる人に出会うことも増えてきますし、自身の尊厳を守るエンパワメントを得ることにもなるでしょう。


長くなりましたが、この記事が異文化生活でストレスを抱えている方のストレス解消のヒントの一つになれば幸いです。


クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWA

 

関連記事:



参考:

by Nedra Glover Tawwab


アメリカの心理カウンセラーである著者による、境界線・バウンダリー引きの大切さがわかりやすく解説された良書。情報満載な上にとにかく説明が分かりやすい。境界線・バウンダリーについてを理解したい方が手に取る最初の一つにぴったりの本だと思います。日本語版は残念ながらまだ発売されていないようですので早く発売されて欲しい!!




ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼンド著


このブログでしつこいくらいに紹介している境界線(バウンダリーズ)の著者による、夫婦・カップル関係に特化した境界線・バウンダリーの本。一番近い対人関係であるカップル関係では、境界線・バウンダリーを試される場面がたくさんあります。様々な事例と共に、健全なカップルの関係になるためのヒントを境界線・バウンダリーの視点を通じて説明しています。



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