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  • 執筆者の写真ヤス@BUNKAIWA

#わきまえない女 に思うこと。権力者の女性蔑視発言を巡る本当の課題とは?日本社会にフェミニズムを【考察】



日本の元総理大臣でもあり、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長でもある森氏による女性差別的な発言をきっかけに、大きな論争が起きています。


彼の問題の発言は、女性蔑視と受け取られても仕方がないものだったと感じます。しかし、わたしが驚いたのは、彼の発言に寄せられた批判を「かわいそう」と擁護する声があること、十分に反省したからと彼の立場に全く影響が無いだけでなく具体的な今後の改良点が国内・国外に説明される様子が全くないことに対してでした。


わたしはこの日本の社会性に対して、とても残念に感じてしまいました。また、そこに大きな病理があることを感じ、日本がジェンダーギャップ指数ランキングの下位に位置する理由に納得したのでした。


わたし自身、日本で育った女性、そしてフェミニズムに触れる者として、この一連の様子を目撃したことに対して、大きな気持ちを抱えています。


この記事では、わたしが考える森氏の発言の何が問題だったのか。そして、心理カウンセラーとしてこの社会性をどう捉えるかについてを話してみたいと思います。



森氏の『失言』はマイクロアグレッションに当たる

森氏の発言の何が問題だったのか?


「女性がたくさん入っている会議は時間がかかります‥」と苦言をした森氏の発言は、『女性』を一つのグループにまとめて、そのグループの人たちがいることでミーティングに不都合が起きると一方的に自身の価値観や憶測からそのグループにあたる人たち(女性)を卑下するものです。これは、マイクロアグレッションに当たります。


マイクロアグレッションとは、自覚なき攻撃性とも呼ばれ、本人が意図してかしまいか、とても分かりにくい状態のまま行われる差別を指します。森氏が「そのつもりがなかった」と説明する通り、本人には全くこの発言が人を傷つけるとは予想していなかった可能性があります。


この自覚なき攻撃性のとても厄介な点は、社会が作り出した人種、民族、性役割、など様々な社会的グループ間の『力関係』が背景にあることです。


例えば、普段から優位の力関係にいるグループ(この場合は権力のある年配男性)の発言が、メディアを通して世間の一般認識として普及している。そうすると、それ以外のグループに属す人から受け取るととても不快な表現でも、まるで一般常識のように思ってしまう錯覚が起きるのです。それ故、何が問題なのか、その事実にすら気づかない人が多い点が、この自覚なき攻撃性の怖いところなのです。


日本の場合、家父長制・年功序列制の価値観が未だ根強いため、力を持つ年配男性によるマイクロアグレッションというのは、かなり存在しているように思いますし、社会もそれに比較的寛容に成り立っているように感じています。



差別的発言・マイクロアグレッションの威力

マイクロアグレッションは、力関係のある社会構造を基盤に発生している暴力です。


そのような社会で生きていく中で、何度も何度も「〇〇グループの人はこうだ」という蔑視偏見を聞かされ、その考えが補強されることで、まるで暗示のように、自分自身をまるでそういう人材なのかと信じ込ませて萎縮させてしまう威力があります。


そのため、多くの人が、女性に「わきまえる」ことを求めてくる森氏と同じような立場の人たちに抵抗するため『#わきまえない女』というハッシュタグを使い、あえて自分はその暗示には屈しない人だということを主張したことは、問題のある社会構造への異議申し立てにもなった、とても希望の持てることであったと思います。



感情論や擁護派、そしてオリンピック・パラリンピック組織委員会の反応にがっかり

森氏の発言の件に関してわたしが一番がっかりしたのは、「一個人の失言がここまでバッシングされなくてもいいのに‥」と受け取った一部の感情論や擁護派、彼の属す組織の決定に対してでした。


というのも、彼のマイクロアグレッションに対する指摘を感情論に流してしまったことで、変えていかなければならない社会構造を変えるきっかけを台無しにしてしまったこと。むしろ、感情論を受けて「過剰に怒られたかわいそうな被害者男」像が作られたことで、本当の加害者と被害者が逆転してしまったような‥バッシングの被害者(森氏、男、権力者)にそれ以上言えなくなるような社会構造がまた作られてしまった、それが結局、力関係が今まで通りのまま、問題の社会構造が保たれる状態が続くことになります。


失言を「うっかり言ってしまったこと」と捉えるのか、それとも「マイクロアグレッション」と受け取るかで対応を変えていくべきです。しかし、問題がある社会的構造を無視して、森氏の発言が『ただの失言』と受け取られ処理されたこと。この人権問題意識の低さが、オリンピック・パラリンピックという国際基準の舞台で堂々とデモンストレーションされてしまったことに、わたしはとにかくがっかりしましたし、憤りも感じました。


そして、「日本では、いくら主張をしても森氏のような立場の人には立ち向かえない」と感じてしまう絶望感が、また一つ上塗りされたとても残念な気分になりました。



フェミニスト理論を日本社会を変えていくためのヒントに

アメリカも長い間、差別に戦いを挑んでいる社会です。発展途上とはいえ、確実に社会の問題点に目をむけ、変えていこうとする動きも盛んです。


そして、社会構造の問題点がどう個人に影響を与え、心理不調を作り出しているのかに着目したフェミニスト理論、そしてそれに合わせフェミニストカウンセリング理論も時代の変化と共に登場しています。


フェミニズムの基本信念は、全ての人間は皆同等の価値を持っていることを前提に、個人の経験や状況は社会の組織的な態度や価値観を反映したものであると認識すること、そして、人々に力を取り戻していくために政治や社会的な変化に貢献することを目指すとしています。


そして、フェミニズム支持者は、抑圧的な社会的態度やそれを持つ社会の広く潜行的な影響力を認識し、それを抑えていくために立ち向かっていく態度を取ります。


この理念を取り入れたフェミニストカウンセリングでは、以下の項目を意識しながら、カウンセリングをおこないます。

  • メインストリームの文化通念のインパクトを認識すること

  • 関係性に力の差異があることを理解すること

  • 関わりあう関係に暴力が起きないように管理すること

  • カウンセラーの責任能力を確証していくこと

  • 社会的変化を促すこと


クライアントが置かれている立場や社会的通念、文化背景、性役割、過去に起きたことや状況が作り出していることなどに着目しながら、個人の中にどう精神的葛藤が生まれているのかに着目します。そして、治療の過程では、クライアントの本来持つ自分らしさを再発見していくこと、共感力と成長を促し、社会を変える勇気や逆境力を得ること、そして自身を再定義しエンパワメントを得ていくことをサポートしていきます。


わたしはこのカウンセリング理論の目指す方向性や姿勢が、日本の社会にも適応されていくべきなのではないかと強く感じます。そうでなければ、いつまで経っても、強い立場にある男性が優位の社会が、その他の立場に当たる人にとって、住みやすい環境にならないのではないかと感じます。(そして、政府がカウンセラーの役割のように、説明責任と主導を果たしていくべきだと感じます。)



フェミニズムは男性こそ必要になるかもしれない概念

フェミニズムは、抑圧を終わらせること、平等さや対等さを勝ち取り、性別関係なく個人が自分らしく、社会とより繋がりながら豊かな生活を送ることを目指しており、これは女性に限ったコンセプトではないことを意味します。


むしろ、女性の社会進出に合わせ、男性側が社会的・性別的役割に今後大きな変化が生まれる可能性もあり、また、日本のように性役割のステレオタイプが蔓延り、年功序列制がある社会においては、ジェンダー関係なく、抑圧されていると感じるグループはいくつも存在しているはずです。


それらのグループが団結し、社会構造をより住みやすい環境になるよう、変化を迎えるために問題意識を持ち立ち向かう必要があるのです。



おわりに

人間は共同体を形成しながら生きてきました。他者とコミュニケーションをとりながら、社会の一員としての立場を敏感に感じ取りながら生き延びてきた私たちは、社会の求める価値観にとても大きな影響を受けます。


さまざまな分野の学問が発達し、人の心に何がどう社会的に影響を与えているのかが知られるようになってきた今、今まで当然とされてきた社会観に問題視の声が生まれるのは、当然のことだと思います。


この記事で例に出した森氏の発言は、ほんの氷山の一角にしか過ぎず、日本には、マイクロアグレッションが、至る所で発言され行われています。それを『無知』で済まされる時代はもうやめて、これからは、そこにある暴力を『認識』し、それに『戦う』姿勢を持つことが求められているように思います。


皆さんはどう感じますか?


クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。

 

関連記事:


参照:

Gehart. D. (2013). Theory and treatment planning in counseling and psychotherapy. Brook/Cole Cengage Learning. Belmont: CA.


森喜朗氏の女性差別発言に対して男性があえて言葉にすべきこと


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