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  • 執筆者の写真ヤス@BUNKAIWA

言葉の壁。海外生活中の『言語のバリア』を乗り越えるための心理対策法【異文化変容ストレス】



何度、自分の英語力の無さを呪ったことか…。


アメリカに来たばかりの頃、とにかく英語が話せない自分が不甲斐なくて、当時のわたしは、目も当てられないほどドス黒い自己嫌悪の底無し沼にいるようでした。


日本は世界で唯一日本語を主言語に話す国。日本語を第一言語に育った者達にとって、海外に行くことはすなわち、第二言語を話さなければならないことを意味します。海外生活をする方の中には、言葉が大きな壁となってストレスを抱える方も多いのではないでしょうか。


事実、慣れ親しんだ環境から新しい環境で生活をすることになった移民が経験する異文化変容ストレスでは、言葉の壁が大きなストレス誘因要素として挙げられています。


そこでこの記事では、言葉のバリアがどのような精神的ストレスをもたらすのか、言語の役割や異言語間のコミュニケーションの問題を踏まえ、日本語を母国語とする方に向けて、異言語学習の心理的対策案を提案したいと思います。


人間にとって『言語』とは何か?

そもそも人間にとって言語とは、コミュニケーションを取るための手段としてだけではなく、自身のアイデンティティを他者に向けて発信するためのツールでもあります。


例えば、自身の人となりや感情・経験談を伝えたり、複雑なメッセージや知識を組み合わせて社会に情報提供したりと、言葉を使うことで、自身のアイデンティティを表現することが可能になります。


言語は、自身の人間性を含む様々な個人の情報を他人と共有し、理解し分かり合うための仲介者のような役割を果たしています。


そのため、言葉が思うように扱えない状況というのは、自身のアイデンティティが上手く表現出来ないような、相手に自分が正しく認識されていないような苦痛を与えるのです。



言語のバリアがもたらす精神的ストレスの正体

英語圏の国に滞在するESL(英語を第二言語とする)韓国出身者を対象にカスタマーサービス体験を記録した研究によると、ネイティブの英語話者とのやりとりにおいて問題が生じた際、相手が明らかに非があると分かる場合を除き、ESL者は自分の英語力の無さを責めてしまう傾向が見られたそうです。また、その時にESL者が一番多く経験するのが主に以下の4つの負の感情でした:

  • 不安

  • 混乱

  • 恐怖

状況を正確に理解しているのか心配になったり、何が起きているのかわからなかったりすることから引き起こされる不安や混乱といった感情はもちろんのこと、自分の顔に泥が塗られた気分になること、または面目を潰された感覚を家族や友人の前で味わうことに対して恐怖や恥の感情を抱くことも顕著に見られたそうです。


その結果、不安や混乱を取り除くために根気強い状況確認作業をするよりも、恥の感情を避けるために、会話をする機会を極力減らしたり、不満を伝えず問題をやり過ごしてしまったりする対処法を取ってしまう人が多かったそうです。


『面目を潰される』感覚について

この『面目を潰された感覚』は、西洋文化出身者に比べて、東洋(しかも日本を含む東アジア諸国)に特に見られる感覚のようです。そして、これらが東アジア出身の第二言語話者にとって、異言語間のコミュニケーションを難しくしている大きな弊害要素と言っても良いでしょう。


過去の記事『海外生活で誰もが遭遇する『恥』体験。恥の苦痛を乗り越えるために知っておきたい『セルフ・コンパッション』という考え方【異文化変容ストレス】』でも説明していますが、面目を潰されたような感覚=恥の経験は、自分が所属する共同体から疎外されてしまうような、自身の生存リスクに直結するような、そんな恐怖心を人に与えます。


特に、家族の繋がりや家系の伝統、本音と建前の文化、集団の価値観が尊重される傾向が強い東アジア圏で育った人にとって、その面目を潰されたような感覚はとてもインパクトの大きなものとなります。すなわち、この恥の感覚を経験するリスクと、それに対する対策を取ることが、言語学習の成功の鍵に繋がっている可能性があるのです。


言語学習の鍵:恥を跳ね返す逆境力を身につける

日本人の言語学習において『恥』が大きな弊害要素となっていると仮定した場合、第二言語を話す上で、恥の感情を消していくことが言語習得の近道となります。恥を和らげるために、以下の3つの方法を試して見てください:



⒈ 練習相手にフレンドリーなネイティブ話者を選ぶ


異言語間コミュニケーションのポジティブな体験機会を増やすこと。


優しい友達やパートナー、フレンドリーな店員さん等を通じて経験する楽しいやり取りは、自身の言語に対するハードルを大きく下げてくれる素晴らしい機会となります。


ポジティブな異言語経験を繰り返すことで、脳の神経回路にもポジティブな思考パターンが構築されるようになり、ストレスが軽減する効果があるそうです。


何よりも、楽しむことが学習を続けられるための大きなモチベーションになります。



⒉ 自分に思いやりを持つ:セルフ・コンパッションを心掛ける


物心ついてからの第二言語学習の習得は、簡単なことではありません。間違って当然、分からなくて当然、自分を責めることは絶対に禁物です。


時には、ネイティブの人たちに囲まれて、周りが知的な発言をしている中、自分一人馬鹿な事を言っているような気分になる時もあるでしょうし、そんな情けない姿を晒してる自分に自己嫌悪感を覚える時もあるでしょう。または、ネイティブが羨ましくて、憎らしく感じてしまうことも。笑


大丈夫、誰もが皆経験者です。自分だけじゃない、と思うこと。そして、頑張っている自分を認めとにかく労ることがとても大切です。何よりも、第二言語を勉強している自分の意欲と努力に大きな拍手を送ってください。



⒊ 自信を持つ


自信を持つこと。


それは、ボディ・アーマーのように、自分を一回りカッコよくコーティングしてくれる効果があります。胸を張ってハキハキと大きな声で話すだけで、周りを説得する雰囲気を演出することが可能です。


たとえ間違った文法を使ったとしても、「今ちゃんと言いましたけど」的なジェスチャーを見せることは、相手と同等に向き合うために大切な要素です。まるであたかも相手が聞き間違えをしたかのような、自分が状況をコントロールするようなつもりで会話に臨んでしまいましょう。


それを繰り返すうちに、必然的に、周囲も自分をネイティブ話者と同じような感覚で認めてくれるようになりますし、自分の気持ちにもポジティブな変化が出てくるでしょう。



おわりに

わたしは言語学習とは、正直向き不向きがあるジャンルだと感じています。


スポーツのように体感で覚える要素があるため、運動神経と一緒で、人によっては比較的容易に習得出来る場合もあれば、習得に長い時間を掛けなくてはならない場合もある。まして、経験や環境など様々な要因が一人一人大きく異なる点も、言語習得への平均的目安を出すことや、自分に合う教材が見つかりにくいことにも大きく貢献していると思います。そのため、周囲との英語力の比較はあまり意味が無いのではないかと考えます。


しかし、努力が無駄になることは絶対になく、一日一つ、何か新しい経験・新しい単語・新しい会話スタイルetc .を積むことで、少しずつなりたい自分に近づけるようになることは可能です。


冒頭にあげたようにドス暗い底無し沼をもがいていたわたしですが、数々の恥経験を経て、現在は地域のクリニックで英語を主要言語にカウンセラーをしています。今でも言い間違いや言葉がぐちゃぐちゃに出てしまう時もあります。しかし、図太くなった神経のおかげで言語のストレスに対処出来るようになりました。底無し沼を必死でモガいた経験がなければ、決して図太い神経も、一回り大きくなった今の自分の姿も無かったことでしょう。


長くなりましたがお読みくださりありがとうございます。言語の壁にぶち当たって辛い思いをしている方が、少しでも元気になりますように。



クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWA

 

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おすすめ書籍:

ジェイ・リース著


相棒ジェイ・リースによる、日米文化考察型英語学習セルフヘルプ本。日本人が「英語が出来ない」と言うのはなぜ?アメリカ人だったら一言話せただけで「日本語?もちろん話せるよ」となるのに!その違いはどこからくるのか。盲点になりがちだった『日米文化の違い』から英語を話すためのメンタリティ作りのヒントを探る一風変わった英語学習ガイド本。興味のある方は是非!



安藤優子著


ニュースキャスター安藤優子さんの留学体験記。今ではアメリカ英語を使いこなしてバリバリ活躍する彼女も、一番最初の最初は誰もが経験することと全く同じ経験を重ねていました。留学生や海外移住を始めたばかりの人に是非読んでほしい本です。わたしも留学初期にこの本に励まされました。




参照:

Hanson, R. (2018). Resilient: How to Grow an Unshakable Core of Calm, Strength, and Happiness. Audiobook. Audible.


Kim, E. E. K., & Mattila, A. S. (2011). The Impact of language barrier & cultural differences on restaurant experiences: A grounded theory approach.






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