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韓国映画『パラサイト:半地下の家族』に登場するアートセラピーの描写について考察【祝!アカデミー作品賞受賞!】


映画『パラサイト』のポスター

外国語の映画で初となるアカデミー賞作品賞を受賞した韓国映画『パラサイト:半地下の家族』


韓国社会の貧富の格差を風刺しつつ、ハラハラドキドキのエンタメ要素も含むドラマティックなストーリー展開で多くのオーディエンスを魅了しました。


わたしも、アカデミー賞にノミネートされた頃からずっと気になっていたこの話題の作品をやっと観ることが出来ました。そして観賞後の感想は‥とっても大満足!!作品賞に選ばれたのも納得の凄い映画でした。


しかし、アートセラピストを生業にするわたしにとって気になることが!!


この記事では、映画『パラサイト』で登場人物の一人が演じたアートセラピスト(美術の家庭教師)の描写について、アートセラピストとして説明が必要だと思った点を述べさせていただきたいと思います。


(以下ネタバレを極力しないようにしていますが、観賞前に映画の事前情報を一切知りたくない方は映画を観るまで読み進めることを控えてください。)


劇中にアートセラピーが登場する場面

物語の軸となるお金持ちの家族。その家の母親は絵が好きな息子のために美術の先生を探しています。そこで登場するのが主要人物の一人ジェシカ(キジョン)。


彼女は、「アメリカでアートセラピーを学んでいた」という嘘と、息子の絵を分析するハッタリをかますことで、息子の情緒に不安を抱えていた母親の心を掴み、まんまと家庭教師の座を得ることになります。


ジェシカのアートセラピーが語られるのは、このシーンだけ。正直、アートセラピーは、そこまで物語の核の部分には関わっていないのですが、アートセラピストとして、ここで2点説明しておくべき点があると感じました。



⒈ アートセラピストは、心理カウンセリングに特化した専門心理職の一つである:


劇中のジェシカの職業は『美術の家庭教師』ですが、アートセラピーも提供する設定になっています。


この背景には、韓国では、アートセラピストが心理カウンセリングの専門職でありながらも、まだまだ専門職としての認知度が低いことが挙げられており、実際に美術の先生が自称でアートセラピーを提供することも見受けられることが関係しているそう。世間の『アートセラピー』という職業に対する認知度の低さがあったからこそ、ジェシカは母親を簡単に信じさせることが出来たとも言えるでしょう(韓国のみならず、日本を含め多くの国では同じような認識を持たれている方が多いのが現状だと思います。)


アメリカの場合、アートセラピストは、最低でも1000時間以上の心理カウンセリングの臨床経験を含むトレーニングを終了した者だけがなれる専門心理職であり、映画が描く『アートセラピーも出来る美術の家庭教師』とは一線を引いています。



⒉ 絵だけを見て作者(クライアント)の症状を分析することは無い:


ジェシカは、息子の描いた絵の一部を指して「『Schizophrenia Zone(統合失調ゾーン)』に心が映し出される」と説明します。このゾーンに描かれた黒っぽい箱状に見える何かが、息子の抱えている闇(トラウマ)なのではないか、と説明するのです。そして、息子が過去にトラウマ体験をしていることを言い当てます。


アートセラピストを専門職としている人達の間で、劇中のアートセラピー描写に問題定義を示した方がいたのはこの描写があるからでした。


実際のアートセラピーでは、絵を心理分析の材料にすることはありますが、セラピストが一方的に絵を見て診断をすることはしません。過去の記事:絵を見ただけじゃ心は読めない。絵画を通した性格診断や心理分析にまつわる誤解と実際を解説【アートセラピーアセスメント】でも説明していますが、セラピストは、絵の作者(クライアント)との対話や行動、文化背景を含む様々な情報を収集して心理を理解しようとします。


そのため、この映画で描写されたように、「この部分にこれが描かれているから、この人はこういう精神状態を抱えている」というような安直なやりとりは一切されません。その点は、どうしても明記しておく必要があると感じました。



アート制作はトラウマ治療に効果があると実証されている

アートセラピーに関して上記二点の描写が気になったわたしですが、アート制作がトラウマを抱える個人にとってポジティブな効果を持つことは様々な研究(特に脳科学の見地)からも理解されてきています。実際に、トラウマ治療の一環として、子供と大人、年齢を問わずアート制作が治療に取り入れられる場も増えています。


そのため、劇中で息子のトラウマとそれを和らげるための手段として母親がアートセラピーに興味を示した点は、アートセラピストにとっては特筆したい点でした。



おわりに

普段なかなか日の目を見ない地味なアートセラピーが、外国語作品で初のアカデミー作品賞を受賞した超話題作の中に登場したのは大変喜ばしいことでした!


しかしながら、アートセラピーという職業の認知度の低さと、世間に大きく誤解されている部分が、ジェシカの嘘に簡単に引っかかってしまった母親からも分かるように、この映画を通じて顕著に現れていたようにも思いました。


そのため、アートセラピストの自分にとって、『パラサイト』の快挙は、世間への正しいアートセラピー知識や職業への認知を広げるための絶好の機会でもあると感じており、記事に書けたことがとても嬉しいです。


アートセラピーのことばかり書いてしまいましたが、映画『パラサイト』は、ちょっと怖いけれど、とても面白い、でも色々考えさせられる奥行きのとても深い映画作品です。あんまり書くとネタバレになるのでこれ以上は言いません!みなさんも、ぜひ観賞してみてください!



アートセラピストのヤスでした。

アートセラピー専用Twitterアカウント→@ArtTherapistYasで最新記事の情報をチェック。

関連記事:

絵を見ただけじゃ心は読めない。絵画を通した性格診断や心理分析にまつわる誤解と実際を解説【アートセラピーアセスメント】


参考:

American Art Therapy Association. Unpacking the So-Called Art Therapist Character in “Parasite”


映画『パラサイト:半地下の家族』日本語予告編↓




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