国際結婚、異文化間のパートナーとの結婚。これらのカップルのカウンセリングをしていて「文化の違いがあるから仕方がない」と聞くことは少なくありません。
しかし、文化の違いがあることは、本当に『仕方がない』ことなのか?
『仕方がない』を理由に曖昧にされた二人の異和は、時が経てば経つほど『仕方がない』では済まないほどの大きな溝を作る原因にもなります。
そこでこの記事では、大きな『文化の違い』を持つ者同士の結婚において、文化の違いを仕方がないで片付けることにどのような問題が隠されているのか、そしてその対処法についてを書いてみようと思います。
文化の違いは『仕方がなくない』
そもそも、誰一人として自分自身と同じ境遇、同じ経験をして今に至っている人はいません。食べ物の好き嫌いなど、交渉の余地があまり無いものに対して「仕方がない」が使われることもあるでしょう。しかし、カップルがこの言葉を様々な場面で多用している場合においては、注意が必要です。文化の違いを仕方がないで済ますことに隠されるいくつかの問題点を挙げてみました:
⒈ 本人の個人的問題や人間性がステレオタイピングにより隠れてしまう
相手の言動・行動を「〇〇人だから」とステレオタイプ化(人を固定概念的に見ること)し、それに対して、もう一方のパートナーが「仕方がない」と話していることはとても多く見受けられる現象です。
確かに、「〇〇人だから」の傾向は存在するかもしれません。しかし、それを理由に、明らかに本人個人の問題である部分を大目に見てしまうパートナーは驚くことに少なくはないのです。「ドラッグ使用」「交友関係」「金銭感覚」「子育てやしつけの仕方」「義理の親との付き合い方」などカップルで一緒に向き合っていかなければならないこれらの問題に対する価値観が自分と大きくズレている場合。もし相手が自分と同じ出身国の人だったとしたら、どうでしょうか?目を瞑らず、迷わず問題定義や指摘をする項目ですよね。
本来であれば、「本当は気になる点」であるはずが、ステレオタイプのフィルターがかかることで問題があやふやにされてしまう可能性があるのです。
⒉ 「仕方がない」が不安、不満や憤りの気持ちを増長させる原因に
深い理解が無いまま文化の違いを理由に「仕方がない」としてしまうのは、ある意味、相互理解や条件交渉の場を放棄した状態に近いでしょう。相手に対して「仕方がない」と思った気持ちをそのままに、相手の言動・行動を黙認している状態は、なんの解決も見つけられないどころか、自分に不安な気持ちや不満の感情を芽生えさせる原因になります。
不満を抱えたまま我慢出来る部分の限界を超えると、そこに待ってるのは憤りの感情。この頃になると、改善策など考えられないぐらい二人の間には大きな考え方の溝が生まれている場合も少なくはありません。
ごく稀に、「仕方ない」でそれ以上の感情が生まれないでうまくいっているカップルもいます。しかしそれは、双方が同じようにお互いを思っているから成立するのであって、どちらか一人が「仕方ない」以上の感情(例えば、不満、寂しさ、物足りなさなど)を持ってしまった場合、それは後々問題を作る原因になっていってしまうのが難しいところです。
⒊ パートナーとの間に上下関係が生まれる可能性も
文化の違いを理解するには、両者が両者の文化に同じレベルの尊重心を持って接する必要があります。話し合いの場を設けずに文化の違いを理由に「仕方がない」と物事を見過ごすことは、一見相手の文化背景に寛容に見えて、実は相手のことも文化のことも本気で理解しようとしていないサインでもあるかもしれません。
なぜ、このような違いがあるのか、自分はどこまで許容出来るだろうか。二人が居心地良く過ごすにはどのような意見交換や情報交換が必要なのか、どう両者の違いを理解していったらいいのだろうか。そうやってカップルにとって居心地の良い環境を本来ならば話し合い一緒に築けるきっかけになるはずが、「仕方がない」と片付けること。それは「わたしには相手の文化が理解できないけど」と隠れた卑下やネガティブなニュアンスを作り出すことにもなります。
これは、子供が生まれた後にはとても厄介で、一方が一方の文化を貶すことにつながれば、それはその子供のアイデンティティ形成にも関わってくる問題となります(文化関係なく、子供の親の悪口をもう一方の親が言うことは子供にはとても傷つく行為です。)
カップルに必要なのはコミュニケーション
カップルは、二人で一つのチーム。そこには、同じ目標を持つものが、力を合わせながらお互いを補い合うようにサポートしながら共に人生を歩んでいくようなパートナーシップの関係が存在します。
どんなカップルであろうとも、カップルは違うバックグラウンドを持った個人が別のバックグラウンドを持つ別の個人と一緒に共同生活を始める異文化交流のようなもの。国際結婚・異文化間の結婚やカップル関係は、相手と自分の国や文化背景が明らかに違うと分かる分、相互理解のための深く継続的な対話の機会が同郷出身者同士のカップル以上に必要だと思います。
それではどのように対話を深めていけるのか?
相手の言動や行動に違和感を感じる場合において、以下の3つを心掛けてください。
自分の文化背景やコミュニケーションスタイルが自分の言動や考え方にどのような影響を与えているのか分析する。
相手の言動や行動に大きな違和感を感じる場合は、その違和感がどこから来ているのかを分析する。相手の性格なのか、文化的にそうなのか、何が根本にあるのかを確認する。
違和感に対して自分が感じた率直な感想を伝える。この時、自分の文化背景が関わっていそうな場合は、そこも付け加えて話す。
相手から自分の言動や行動に対して意見を言われた場合において、以下の3つを心掛けてください。
相手の話す意見を素直に聞く。自分への批判だと思わずに、出来るだけ客観的に聞く姿勢を心掛けること。
相手がなぜそう思ったのか、考えてみる。
相手の意見に対して、文化背景が関わっている場合は、文化の習慣や慣習、考え方の違いを伝え、誤解を解消する。
イメージとしては、向き合う二人の間にテーブルがあって、そこに全部、それぞれの手の内にある言葉だったり文化背景だったりの素材を次々テーブルの上に見える状態に載せていくような作業に近いかもしれません。
二人がそれぞれ思ってること、抱えている文化背景、それらを見える形で提示することで、そこから、じゃあどうしていけば良いのか。その話し合いが出来るようになります。
おわりに
二人の対話が実現するためには、双方が相手を理解しようと、聞く耳を持ち、相手の意見に耳を傾けられるような尊重と思いやりの気持ちを持つことが大切だと思います。そして、それは時間の掛かる、とても気の長くなるような体験である時もあるかもしれません。
しかし、その対話のチャンスを『文化の違いがあるから仕方がない』で切り捨て見なかったことにするのか、それとも、辛抱強く相手と向き合うきっかけにしていくのか、その違いがカップルの運命を決めるように思います。
国際結婚・異文化間の結婚やカップル関係に焦点を当てましたが、この対話のやり方は、どのようなカップルでも使える介入方法だと思います。ぜひ、使ってみてください。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
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参考:
エリン・メイヤー著
様々な国の人と働くビジネスパーソンの異文化コンサルティングをする著者による、国別のコミュニケーションの特徴を解析した面白い本。日本出身者のコミュニケーションがかなり世界から見ても特殊な様子がこの本からも一目瞭然。異文化出身者とのコミュニケーションにおいて、何を気をつければ良いのか。国により好まれるコミュニケーションの傾向や違い、比較が山ほど載っていて、文化の違う者同士の相互理解の参考になること間違いなしです。
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