
みなさんは、インセキュアという言葉を聞いたことがありますか?
アメリカに住み始めたばかりの頃のわたしは、毎日がインセキュアとの戦いでした。特に、英語へのインセキュアには大変苦戦しました。
「英語がうまく話せない。きっと能力の無い奴だと思われている…」
直接、ひどいことを言われたことは無いものの、疑心暗鬼な感情に押し潰されそうな、そんな自信の無さから来る恐怖を当時のわたしは抱えていました。
インセキュアとは、まさにこのような自分の能力に自信が無い状態、そこにコンプレックスを抱いているような状態のことを表現する言葉。
日本語ではドンピシャな言葉が存在しないものの、このインセキュアな気持ちは、人種、民族を問わず多くの人が経験する心の葛藤のように思います。そして、自分の居心地の良いゾーン(コンフォートゾーン)を離れて人生を開拓していくことを求められる移民にとって、それは克服したい大きな障害の一つでしょう。
そこで、この記事では、慣れない海外生活を頑張っている方に向けて、インセキュアの特徴と、それを乗り越えるための秘訣を特集したいと思います。
インセキュアとは?
前述したように、インセキュア(insecure)とは、自身の何かしらの能力に対して自信がない状態のこと、そしてそのような状況に大きな不安を感じている心理状態のことを指します。
インセキュアな人に見られる恐怖や不安、そして疑心暗鬼の感情は、このような形で現れます:
低い自己尊重・低い自己肯定感
自身のボディイメージに問題を抱える
人生の指針に迷いが生じる
他人から卑下されているように感じる、などなど
インセキュアが起こる要因には様々あり、生まれ育った環境、例えば批判的な親の元に育っていたり保護者との安心感を持つ愛着形成が出来なかったりしたことにより慢性的に自信を感じられずにいる場合もあれば、大きな失敗や拒絶を経験することによって突然経験してしまう場合もあります。
慣れない環境で生活を始める移民にとって、新たな生活を送っていく上で経験する様々な不安や挫折と、それによる自身の能力不足な点を嫌でも実感せざるを得ない状況は、インセキュアな気持ちを生み出します。そして、それは、大きな不安や恐怖、コンプレックスの根幹となって、自分の心に住み付いてしまうのです。
インセキュアは人間関係の災いのもと
インセキュアの怖いところは、そのネガティブな陰気性質。自分の自信の無さが生み出した不安が原因のインセキュリティは、自分個人の問題でありながら、それが周囲の人との対人関係に大きな影響を与えてしまいます。
例えば、話し相手が言った何気ない一言が、まるで自分のことを指摘していたり、責めていたりするような発言に聞こえてしまう‥。わたしの場合、英語へのインセキュリティから、自分が発言した直後に重なるように笑い声が聞こえると、つい「自分のことを笑っているのか」と思ってしまう時がありました。
自分がインセキュアを感じていることに近いことを言われる(刺激される)もんだから、思わず感情的に反発してしまい、そこから喧嘩が発展してしまうこともあるのです。
または、自分がインセキュアに思っているようなことを体現している誰かに対して、思わずイライラしてしまったり、きつく当たってしまったり、という経験を抱える方も多いのではないでしょうか?わたしの場合、英語を流暢に話している人に嫉妬したり、逆に英語が全く出来ない人が人前で英語で発言しようとしている場面に遭遇すると、まるで自分がそれを体験しているように恥ずかしさと苛立ちを感じてしまいサポーティブになれなかったり。
これは、心理学用語で投影(プロジェクション)と呼ばれ、自分自身の心をまるで相手というスクリーンに映像に映しているかのように、相手を自分の問題と重ね合わせて見てしまう現象のことを指します。
全て自分の心の中で起きていることが原因なため、相手に何かを言ったところで話のキャッチボールは出来ませんし解決法も見つかりません。そのため、このような対人衝突を続けていると、人間関係が悪化してしまい孤立してしまいます。
インセキュアへの対処法とは?
なかなか厄介なインセキュアな感情。それではどう対処すれば良いのでしょうか。以下の3つを試してください。
⒈ インセキュアな部分を直視する。
自分にインセキュアな部分があること、その弱さが何なのかをしっかり把握するところから始めましょう。
自身の抱える不安や恐怖、自信の無い部分は何なのか。何が原因でどうしてこうなっているのか。自分のインセキュアな部分をしっかり分析し把握することで、誰かとの会話や何かを引き金にインセキュリティを刺激されたとしても、感情的な昂りを抑え、冷静に対処することが出来るようになります。
⒉ 弱さを持つ自分を認める・受け入れる。
弱さを見せることは、とても勇気のいることです。しかし、弱さを見せた先にあるのは、正直で人間らしいありのままの自分の姿。
恥の研究で有名なブレネー・ブラウン博士は、自分の弱さを直視ししっかりそれに向き合うことで、今の自分に本当に必要なことは何なのか理解出来るようになると説明しています。そして、ダメな部分を持ちながらも難しい状況を必死にやりくりしている自分を一人の人間として認めてあげることで、自分に対する思いやりや優しさを感じることが出来、それが自分を好きになるきっかけ、または自信に繋がるようになると話しています。
同時に、弱さを曝け出すことによって共感してくれる他者と出会うことも出来ます。
自分の弱さを見せたときに深く理解し受け入れてくれる人に出会えると、それはとても大きな収穫となります。そして、その人間関係がまるで薬のように、自分の自信を取り戻す癒しの力を与えてくれるのです。
この人間関係は、自分の弱さをさらけ出し、相手と本音と本音で話せるようにならないと見つからない特別な関係です。
⒊ 自分をインセキュアにさせる活動に、あえて挑戦し続ける。
インセキュアは、自分の自信の無さから生まれます。そのため、自信が付く場面が増えれば、それだけインセキュアは減っていきます。
そこには、血の滲むような努力も、肝試しのような恐れに立ち向かうような挑戦力も必要です。しかし、最終的にインセキュリティを克服するには、あえて恐れているものに挑む!これが一番なのではないかと感じます。
わたしのインセキュアのその後‥
冒頭で話したわたしの英語へのインセキュア体験は、苦節を経て解消している途中です。
英語に苦手意識を持っていたわたしは、正直他に選択肢が無かったのもありますが、英語を話さざるを得ない機会に嫌と言うほど恵まれ‥笑。嫌で仕方が無かった電話対応は、インテイクセラピスト(電話でクリニックに問い合わせてきたクライアントに応対する最初のセラピスト)の役割をさせられることで向き合うことになりました。
それは、修行のように苦難な日々で、インセキュリティを刺激されるレベルどころか、ガッツリ英語力に対して文句を言われることもありました。
しかし、人間、慣れってあるんですね。自分がインセキュアを感じている部分を嫌というほど把握した上で、必死にやりくりした期間を抜けると、案外対応出来ている自分に気づけた時に「ちょっとすごいかも?」と思える自信が付随してくるのです。
セラピストになるまでの過程では更なるインセキュアな時が待ち受けていましたが、多分、これはどんな方にも存在する、成長するための試練を与えてくれる感情なのかもしれません。
長くなりましたが、インセキュアについて書いてみました。知っていると、今までよりも一回り大きく強くなれるこの対処法。みなさんも、自信が無くて不安で辛い時は是非、意識してみてください。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
関連記事:
参照:
Insecurity: Good Therapy
The 3 most common causes of insecurity and how to beat them: Psychology Today
ブレネー・ブラウン著
このブログでも度々紹介しているブレネー・ブラウン博士による『弱さを強さに変える』ための本。本記事で紹介したインセキュアを乗り越える秘訣が、博士の体験談と共に、紹介されていて大変おすすめです。個人的に、彼女の本の中で、この本が今のところ一番好きです。興味のある方はぜひお聴きください。
Brown B. (2003). The power of vulnerability: Teachings of Authenticity, Connection, and Courage. Audiobook; Audible.
Burgo J. (2006). Why do I do that? Psychological Defense Mechanisms and the Hidden Ways They Shape Our Lives. Audiobook; Audible.

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