みなさんは、産後ママ特有の不安障害についてご存知ですか?
産後うつのいとこにあたるとされるこの障害。新米ママの約10%が、この症状に苦しむと報告されています。
この症状は、極度の不安や、頭をグルグル駆け巡る思考、ドッとした疲れ感が特徴と言われています。
不安が主症状であるものの、この状態がずっと続くことによって産後うつへと症状が発展していくことも、もしくは同時に併発している場合もあるそうです。
そこで今回の記事では、なかなか語られない産後の不安障害についてを特集したいと思います。
産後の不安障害の特徴
産後の不安障害の症状には、このような特徴があります。
極度の心配
搾り取られるような疲れ感
頭をグルグル駆け巡る思考
集中力の欠如
食事や睡眠習慣の変化
めまい
ホットフラッシュ(不快な火照り感)
心臓の鼓動が早い
吐き気
症状が始まるのは、出産直後からすぐ発症することもあれば、またはストレスフルなイベントなど何かをきっかけにして出産後しばらく経っていきなりなってしまう場合も。
産後の母親はとても大きな動揺を経験している
そもそも、気分の変化が出てしまう一番の大きな原因は、大きなホルモンバランスの変化と言われています。出産前の女性の体にあったエストロゲンとプロゲステロンというホルモンが、出産直後24時間以内に大幅に減ってしまうことが分かっています。この大きなホルモンバランスの変化が、母親の感情に大きな影響を与えます。
それに加えて、新生児の世話に追われ直面する寝不足。これが新米ママを精神的・体力的に疲れさせます。
そんなしんどさを抱えながら子育てが始まり、「子供が生まれて一番幸せな瞬間」なはずなのに楽しめていない自分‥と社会的に母親が抱かれているであろう「こうであるべきイメージ」が彼女達に追い討ちをかけるのです。
産後不安障害の原因とは?
身体のホルモンバランスの大幅な上下降と体への負担、生活スタイルの変化、そして何も出来ない赤ん坊の命が自分に掛かっている大きな責任感‥。この時点で、誰でも大きな不安を抱えていても当たり前ですよね。それに加えて、いくつか極度の不安を誘発する要因を持っている場合、産後不安障害のリスクは高まります(すべての不安障害を発症した母親が以下に当てはまるわけではありません。)
真面目、繊細、心配性の性格
自身や家族に不安障害歴がある
過去にうつを経験したことがある
PMS(月経前気分障害ー生理前後に大きな気分の変化を経験している)歴
摂食障害既往歴
OCD(強迫性不安障害)既往歴
また、過去に流産や死産を経験したことがある母親の場合、さらに不安障害を発症しやすいことが傾向としてあるそうです。
これらは、あくまでも傾向的な要因であって、中には、何かのふとした不安を誘発する切っ掛けがあって、産後しばらく経ってから不安を強く持ってしまう母親も存在します。
対処法とは?
もしも、極度の不安を経験していて日常生活にも支障が出始めた場合(またはそのような母親が身近にいる場合)、すぐに掛り付けの産婦人科医に相談してください。そして、産後の母親のメンタルヘルスに精通する心理カウンセラーを紹介してもらうようにしてください。
そして、家族や身近にいる人に出来ること、それは不安に寄り添ってあげる姿勢です。
「それぐらいのことで不安になるなんて」とか「母親なんだからそんなこと言ってないで‥」といった、本人の不安を払拭させようと発した助言が、そうしたくても出来ない本人をもっと追い詰めてしまう時もあります。
大切なのは、まずは、その不安の気持ちを聞いてあげること。そしてそこから、冷静に、一緒に不安を減らすための対処法を考えていく寄り添いの姿勢を取ることが大切です。
また、極度の不安や頭の中を駆け巡る様々な考えが止まらない状態への対策として、マインドフルネスの考えを組み込むことが効果的であると知られています。
例えば、不安が襲ってきたら、自分の思考を巡らせる方向に意識を向けるのではなく、自分の今、目の前に起きていること、自分の触れているもの、見えているものに意識を集中させる。これは、頭の中をぐるぐる巡る思考を一時停止し気持ちを落ち着かせるための、マインドフルネスを利用したテクニックです。
コロナパンデミックの影響について
一つ忘れてはいけないのは、コロナパンデミックの影響。
新型コロナウィルス感染症によって、今まで普通に出来ていたことが出来なくなりました。例えば、外で誰かに会って気分転換したり、除菌を心配する必要なく街を歩けたり、これらが今は細心の注意を払いながらではないと出来なくなってしまいました。
出産、産後すぐの子育て、これらの慣れない状況に加え、今はパンデミックの影響によって日常生活に多くの制約や危機感もあります。この状態に、いつも以上に不安を感じている母親がいても不思議ではありません。
そのため、いつも以上に神経質になる母親がいても、それはむしろ当たり前の状況かもしれないこと、むしろ多くの母親が不安障害を抱えやすくなっている状況が現実的に存在している可能性を念頭に置いておく必要があるかと感じます。
おわりに
産後うつなど産後のメンタルヘルスを専門に扱うクリニックで働いていたこともあり、様々な状況の新米ママの相談に乗る機会がありました。
その中で強く感じたのは、産後の母親の経験する感情のプロセスは、人により体質や家庭環境、住環境が誰一人として同じ条件のもと育ってきた人がいないように、一概に出産経験や出産後の反応を一つの型に当てはめて話すことが出来ないということ。そして、そこに『普通』は存在しないこと。
一人一人が、出産をきっかけとしながらも、多岐に渡る様々な葛藤や心境の変化を経て産後のメンタル不調に苦しんでいました。重度の産後うつや、産後精神病・サイコシス(幻覚などを見てしまう)の場合は、適切な薬の医療介入が必要になる場合もあります。しかし多くの母親の場合、カウンセリングのサポートによる気持ちの整理や家族からの理解が深まることで、徐々に症状が落ち着きます。また、他の母親たちと同じような悩みを共有出来る機会があることもとても重要だと思います。
メンタルヘルス全般に言えることかもしれませんが、人間誰しも良い時もあれば不調の時もあります。そんな時、世間の考える『普通』を押し付けるのではなく、サポートが必要としている人に気付いてその人に必要なサポートを繋げてあげられるような、監視ではなく他者への優しい注視が社会にあって良いのではないかな、と強く感じます。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
関連記事:
産後のメンタルヘルスに関して、以下のサイトからも様々な情報を得ることが出来ます:
『妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル』公益社団法人日本産婦人科医会より
http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/03/mentalhealth2907_L.pdf
産前産後の母子支援専門の市川香織さんの記事
産後ママのためにパートナーが出来ることを特集した記事
https://fqmagazine.jp/86312/postnatal-care-planning/
産後不安障害に関する記事(英語)
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