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映画『モアナと伝説の海』は現代社会に生き辛さを感じる人に自分らしく生きるためのヒントをくれる物語【心理学の視点からの映画考察】


『モアナと伝説の海』のポスター

みなさんは、ディズニー映画『モアナと伝説の海』をご覧になったことはありますか?

2016年に公開されたこの映画は、ハワイやサモアなどが含まれるポリネシア地域の文化を参考に描かれた、ある一人の女の子の冒険と成長をテーマにしたストーリーです。

一見子供向けのアニメーション映画ですが、実は大人だからこそ観て欲しい、自分が自分らしく生きるためのヒントが隠されている映画なのです。


そこでこの記事では、この『モアナと伝説の海』の背景にあるメッセージについてを心理学の視点から特集したいと思います。ネタバレがありますが、気分転換に気軽に読んでいただけたら嬉しいです。



昨今のディズニー映画の特徴、そして『モアナと伝説の海』で描かれたテーマとは?

『モアナと伝説の海』の直前直後に公開され大ヒットした『アナと雪の女王』そして『ズートピア』。これらを観ても分かるように、昨今のディズニー映画は、ただのヒーローやプリンセスのサクセスストーリーとは一味違う、現代社会のブラインドスポットや人生の意味を深く掘り下げたメッセージ性をとても色濃く出した作品作りをしています。

モアナもその例外ではなく。


この作品では、自分の本当の姿を探す『自己探究』そして、自分を受け入れ成長を目指す『自己実現』がテーマとなっています。そしてそれは、現代社会を生きにくい、無理している気がする、しんどい、と感じながら過ごしている人にとって、自分らしさを取り戻し生き生きと前向きに生きることの大切さを教えてくれる内容となっています。

自己実現とは?

自己実現とは、自己に内在する資質や強みを生かしながら、最大限に自分らしく人生を生きること。心理カウンセリングの父、そして傾聴の生みの親である心理学者カール・ロジャーズが提唱した人本主義(ヒューマニスティック)理論において、セラピーがクライアント(相談者)に求める最終ゴールの姿です。

ロジャーズは、「人は本来、自己実現に向かって絶えず成長しようと試みる能力を備えている」という自己に内在する向上心に注目しました。そして、人が悩みを抱える理由は、自分自身が自身の持つ力(内在する力)に気づかないまま、周囲に振り回されながら周りに合わせながら(自分を見失いながら)生きてしまうことが多いからだ、と考えました。

そのため、彼の作った人本主義のアプローチを基にしたセラピーやカウンセリングでは、本人が自分自身に内在する力に気づき、それをどう生かしながら生きていくのか、その過程を横から寄り添うような形で見守り応援していくようなスタイルをとります。

これがまさに『モアナと伝説の海』のテーマに当てはまるのです。

それでは、映画の中で実際にどのように自己実現が語られているのでしょうか?少し物語を掘り下げて解説してみます。


(以下の内容はネタバレになるので、映画をご覧になってない方は映画観賞後にお読みください。)

モアナとマウイはそれぞれ自分の本当の姿を探している

このストーリーは、1000年前に半神半人のマウイが盗んだ石のせいで地上に災いがもたらされたところから始まります。その石を元の場所に戻し災いの侵食を食い止めるために、海に選ばれたモアナと、石を盗んだ張本人マウイの二人が航海をすることに。でもその過程は、まさに自分探しの旅そのもの。

モアナは、なぜだかわからないけれど小さな時から海が大好き。なのに、島の掟で海に近づいてはいけないと教えられて育ちます。なんとなく自分を騙し騙し、島の生活を頑張ろうと思うけれど、何かしっくりこない。ちょっと馴染めない。そんな自分の心の葛藤を抱えながら、毎日を送るのでした。

そんな彼女が、実は「祖先は海を渡り歩いた航海者だった」と知ったこと、そして「海に選ばれた」感覚が、島から一歩も出たことがなかった彼女に冒険のチャンスを与えます。

一方でマウイは、一見自信過剰に見えるものの、大きなインセキュリティ(コンプレックスや自信の無さ)を抱えて生きています。彼は、赤ん坊の頃、人間の親に捨てられたところを神様に救い出されて半神半人になりました。神様のパワーを手に入れたマウイがして来たのは、自分を見捨てた人間に受け入れてもらうこと。人に喜んでもらうことが自己承認に繋がっていたのです。石を盗んだのもそのためでした。

どんなに尽くしても見返りが無く、むしろ永遠と続く要求、そんな虚無感と闘うマウイは、自分の存在意義は、魔法のフックの有無にあると信じて疑いません。皮肉なことに、使える魔法は、自分の存在を自在に変える能力。

自分のことを理解出来ずにいた二人の旅は、少しずつ自分の本来の姿を取り戻す実感を与えてくれます。マウイは海の何も知らないモアナに航海術を教え、モアナはマウイにマウイ本来の優しさや強さを教えるのでした。


マウイのフックとは?海の存在とは?

登場人物の圧倒的に少ないこの物語で、登場キャラクター達が、メタファー的、象徴的な役割を果たしています。

マウイのフック:


自在に変身することが出来る魔法のフック。マウイはこれが無いと自分には何も無いと思い込んでいます。フックがあるからこそ、人々の承認を得て来たものの、それは本当に自分にとって必要なものなのか、それが最後に試される時が来ます。

マウイとフックの関係は、マウイが自分を見つけるまでを象徴するような役割を果たしていると言えるでしょう。

タマトア:


マウイの敵として、そしてマウイの過去を知る存在として現れる巨大カニ。自分を装飾で飾り付け、自慢をすることが大好き。


インセキュア(自信の無さやコンプレックス)を抱えるマウイが、どうしても自分の弱いところと対峙しなければならない、目を背けたくてもギラギラ目一杯視界に入ってくる、避けては通れない難関として存在しています。

モアナのおばあちゃん:


モアナに、先祖の秘密を教えてあげたおばあちゃん。彼女は、モアナに旅のきっかけをくれる大きな存在です。そして、一番近くでモアナを支えます。彼女の存在は、まるでセラピストのよう。モアナの心のモヤモヤに鋭く突っ込み、彼女のモヤモヤを外的化、そして行動に移すまでの後押しを手伝います。

また、モアナが心が折れそうになった時には、モアナをそのまま受け入れ、見守り彼女の選択を尊重しようとしています。これはまさに、ロジャリアン(ロジャーズのアプローチをするセラピスト)のアプローチそのもの。このおばあちゃんのお陰でモアナは自分の信念に気づき、たくましく成長を遂げるのです。

海の存在:


モアナを選んだ海、これは本当に海が選択したことなのか。部分的にサポート的役割を海は果たすもの、この海は、荒波も作るし、モアナに力添えするのはほんのわずか。

捉え所のない海の描写は、まるで、鏡のように、モアナの心を投影している存在に近いように表現されています。

チキンのヘイヘイの存在:


チキンのヘイヘイ。チキンは英語で、臆病者という意味を持ちます。もしかして、時たま出てくるチキンの描写は、モアナの恐れ心というか、島の暮らしを思い出させるような、そういう彼女の過去を連想させる存在、時には懐かしく、時には足手まといであったりもどかしかったり何とも言えない気持ちを表す存在だったのかな、と思いました。

『自分本来の姿に気づくこと』がクライマックス

モアナとマウイ両者が冒険を通じて見つける自分自身の本当の姿、強さ。それに加えて、映画の最後には、全てを総まとめしたように、もう一つ、本来の姿を取り戻す存在がいます。

「自分が本当は誰なのか。」

「誰かに自分の存在を決めさせていないか。」

「本当の自分は自分が一番知っている。」

これらのメッセージが繰り返し表現され、最後に世界に大きな変化が訪れます。

現代社会を生きやすくするヒントとは?

今、わたしたちが生活する世の中は、世間の決まり切ったルールや慣習に合わせて、誰もがそれに合わせるように生活をすることが望まれています。

もちろん、職種や環境によっては自分に合った生活を無理なく送れている方もいるかもしれません。

しかしながら、一人一人の体つきや得意なこと、能力が違うように、誰もが誰も同じ場所が合うなんて奇跡は起きず、集団の中には、どうしても今いる生活環境が自分には合わない、と思いながら、自分にムチを打って必死に周囲に合わせながら生活している人もいるでしょう。

生きにくさの原因は、その生きにくさが何なのか、自分にとってどういう生き方やオプションがあるのか、それをどう選ぶことが出来るのか、それを考えるチャンスが与えられないまま、合わない生活を強いられている場合もあるのではないかと感じます。

自分は本来どういう人なのか、何がしたいのか、そしてそれを生かせる環境がどこにあるのか、何かが行き詰まった時こそ自分を見つめ直す、自分探しの機会が必要です。

『モアナと伝説の海』はそんな、今の生活に生きづらさを感じている人に、ぜひ見てもらいたい、リマインダーのような映画です。映像もサウンドトラックも素晴らしく、ぜひ、気持ちが落ち込んでいる時にご覧ください。

クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。

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参照:

映画『モアナと伝説の海』

Rogers. C. On Becoming a Person (English Edition)

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